第49話.女王の君臨①

 ケロッキーが制作した仮想世界、メタアースは人口が急増していた。


 巷で、メタアースに登録しアバターを持つと、現在世の中を恐怖に陥れている謎の不審死に遭わない、との噂が流れたのである。


 それにより不安に駆られ恐怖から逃れようとした人々が、挙ってメタアースに登録したのであった。


「菊美はうまく世の中を扇動してくれてるようっすね。これによって残るのは、噂を信じない頑固者と時代についていけない愚か者だけ」


 ケロッキーはそう呟き、肩を震わせクククと一人静かに笑い声を上げた。


「……何が楽しいの?」


 ソファーに寝そべりスマホをいじっている鏡原かがみはらみゆりがぶっきらぼうに訊いた。


「ん? そりゃボクの思い通りにメタアースと世の中が進んでるからっすよ」


 ケロッキーはそう答えたが、みゆりとしては全く面白くない。


 何故なら、彼女は以前の生活が嫌で家出してきたわけだが、この廃工場での生活も自由に外出できるわけでなく、またスマホとメタアース以外に刺激も遊べる物も無い為、ここの暮らしにも飽きてきていたのだ。


「ふぅん……」


 そう素っ気なく答えると、みゆりはまたスマホの画面へと目を移した。


「なんか不満そーっすね?」


 ケロッキーがみゆりに訊く。


「だってそのメタアースとかも飽きたし。女王になるとか言われてたけど、特にわたしすることないし、女王らしいこともないし」


 ソファーに寝そべっているみゆりはケロッキーに背を向け、不貞腐ふてくされた態度を取る。


「それならメタアースの住人達と女王の立場で交流してみるっすか? いまメタアースに登録するにも、店を始めるにも、モンスターの森で狩りをするにも、全部みゆりの許可がいるようになってるっすから」


「えっ? そんなのわたし聞いてないし。ってか、何でわたしの許可がいるの?」


「自分でも言ってたでしょ。みゆりはメタアースの女王なんすよ?」


「それにわたし許可とかした覚えないし」


「だ・か・ら、みゆりは名前だけ女王でその他のことはボクに任しときゃ良いんすよ。さあ、これをかぶって」


 そう言って、ケロッキーはみゆりにヘッドギアを渡してきた。


 将来を悲観していたので自分なんかどうなってもいいと思っていたみゆり。


 親も友達も恋人も要らないし、孤独でも構わないと思っていたみゆり。


 そんな投げやりな気持ちだった時にケロッキーと出会い、何もしなくていいからメタアースの女王になって欲しいと言われ、その話を安請け合いしたみゆりだったが、どうも自分の知らないところで勝手に何かが進んでいるような気がして、言うなれば学校の教室の中で、実は自分だけ仲間外れにされていたような、そんな嫌な気分がした。

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