第38話.熱意無き国会中継②

 緑門莉沙りょくもんりさは政治家が発した先導者という単語に僅かに動揺し贄村囚にえむらしゅうの方を見たが、彼は表情ひとつ変えずに国会中継を観ていた。


 夢城真樹ゆめしろまきの方へも視線を送ってみたが、贄村と同じく変化はなく、腕組みをしながら難しい顔でテレビを観ている。


 莉沙も仕方なくテレビ画面へとまた目を戻し、退屈な国会中継を観ることにした。


 ◆ ◆ ◆


 怠そうに足を引き摺った歩き方でひょこひょこと答弁席に立った総理大臣は、野党議員の質問に答えた。


「治安のことは『警察』に一任しております。何人いるか、どこにいるかもお答えできません。そして今後、政府が治安に関与することはありません。『警察』で足りない部分は、国民各々が自衛で補って頂きたいと思っております」


 ぶっきらぼうにそう答えると、総理大臣はまた自分の席へと戻り腰を掛けた。


「いや、ちょっと待ってください! 国を統治する政府がそんな無責任なことで良いんですか? 総理の方針だといずれ国が滅びますよ!」


 野党議員が声を荒らげる。


 総理大臣はやれやれといった感じで、のそりのそりと答弁席へと戻った。


「滅びる時は滅びる。それも天帝の御意志だと思って、受け入れることも大事だと思われます」


 この虚無的な総理大臣の答弁に、ふざけるな!と大声で幾つもの野次が激しく飛んだ。


 ◆ ◆ ◆


 混乱に陥ったテレビ画面内の国会中継。


 それを観ていた莉沙は、


「なんかよくわかんないけど、大人気ない。いい歳をした大人が怒鳴り合っちゃってさ。政治家って本気で国をよくする気あるの?」


 横で共にテレビを観ている真樹へ訊いた。


 訊かれた真樹は腕組みをしたまま……、小さく寝息を立てて眠っていた。


 莉沙は思わずソファーから滑り落ちる。


「ちょっと! 人に政治を学べって言った人が、なんで先に寝てんのよ」


 莉沙はソファーに座り直した。


「……それにしてもさ、なんで総理大臣がわたし達が持ってる奇能きのうのこと知ってるの?」


 今度は贄村に訊いた。


「わからない。そして何故、天帝の名まで彼が知っているのか……」


 贄村は机に肘をつき、顔の前で指を組んだ。


「わたし達って政府と関係ないんでしょ? もしかして政府も終末のこと知ってるの? それにわたし達、警察として街の人達を守らなきゃいけないわけ? 正義の味方なんてわたしの柄じゃないからやりたくないんだけど」


 莉沙の頭に次々と疑問が浮かぶ。


「さあな。だが、まだ裏で我々と天園あまぞの達を衝突させ、消滅させようとしているものがいるのは間違いないようだ……。それが政府とどう関係あるのかはわからないが……」


「そう、贄村さんでもわからないんだ……」


 莉沙はふっとため息を吐いた。


 自分が奇能持ちだと世間にばれたら、きっと多くの人が自身の元へ殺到するだろう。


 そのことが気掛かりで、莉沙は少し落ち着かない気持ちになった。


「ところで、莉沙にも訊きたいことがあるのだが?」


 贄村に逆に質問をされた。


「なに?」


 莉沙が答える。


「最近、さしたる用もないのに、この相談所に頻繁に出入りしているようだが……どうしてだ?」


 贄村の質問で、莉沙の身体に動揺が走る。


「あ、ほら、わたし達って新世界を目指す仲間じゃない? わたしって今まで単独行動が多かったから。だからなるべく一緒に過ごす時間を作った方がいいかなーって、思うようになって……」


 莉沙は咄嗟に取り繕うも、自身の顔が紅潮していくのを感じた。

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