第37話.熱意無き国会中継①

 暗いビルの一室にあるサバト人生相談所。


 そこの所長、贄村囚にえむらしゅうとそのアシスタント、夢城真樹ゆめしろまき、そして最近、頻繁に相談所に出入りしている悪魔側の先導者、緑門莉沙りょくもんりさの三人は、所内のテレビで国会中継を視聴していた。


「まきちゃんも政治の番組とか観るんだ? なんか悪いけど意外」


 莉沙が訊く。


「あら、あたしはこう見えても人間社会のことをよく知っておきたいから、政治に関する番組は欠かさずチェックしてますわよ」


 真樹が答える。


「そうなんだ。わたし、今までこういうの観たことないから」


「政治は遠いものじゃなく、誰しも日々の生活に関わることだから、莉沙先輩もしっかり学んでおいた方がいいですわよ」


 莉沙にそう言うと、真樹は真剣な顔つきで腕を組み、テレビ画面に見入った。


「わたし、難しい話とか聞くと眠くなっちゃうから」


 そんな莉沙も贄村や真樹と同じく、テレビへと視線を向けた。


 ◆ ◆ ◆


「総理、いま巷間ではメタアースという仮想世界が話題になっていて、多くの国民が関心を寄せていることはすでにご存じでしょうが、この仮想世界での通貨、ケロコインというものに我が国の円が大量に替えられているようです。問題はこのメタアースを管理している者が何者で、ケロコインをいくら発行し、そしてケロコイン購入時の円がどこに流出しているのか、一切謎に包まれていることです。総理、このことをどうお考えですか?」


 野党議員が総理大臣を追及する。


 その質問に答える為、総理は答弁席に立った。


「市場経済のことは市場に任せておけばよいかと思います」


 総理大臣はそう一言述べて席に戻る。


「いやいや、待ってください。国のトップとしてそんな無責任な答えはないでしょう。多くの人が次々と円をケロコインという実体のよくわからない仮想通貨に替えてるんですよ。つまり、このまま放置しておけば、ケロコインの需要ばかり拡大して円を誰も欲しがらなくなり、価値が下がる可能性がありますよ。ケロコインの流れを謎のままにしておいて経済は大丈夫なんですか?」


 呆れた声で野党議員は質問を続けた。


「昔から『見えざる手』と言いまして、我々が手を下さなくとも、社会全体の利益となるよう経済は自然とバランスが調整されていくものであります。それは仮想世界でも同じであろうと思いまして、今で言うなら『天帝の見えざる手』とでもたとえるべきでしょうか」


 無機質な感情のこもっていない声で、総理大臣は答弁する。


 議場からは失笑が漏れた。


「総理、何ですか、天帝って。冗談を言ってる場合ではないですよ。政治家が呑気では困ります。ただでさえ、原因不明の死亡事件が起きて、国民は不安に怯えているというのに。そしてこの件に関しても質問なんですが、この原因不明の死亡事件、どうも被害者は主に高齢者が多いようです。その理由もまだわかっていません。そこで総理、お聞きしますが、政府は以前、奇能きのうという特殊能力を持つ者が社会の治安維持を担う『警察』だと発表されましたよね。私の調べたところによりますと、この奇能を持ってる方は、現在アイドル活動をされている砌百瀬みぎりももせさんのみしかわかりませんでした。まさかとは思いますが、その警察は砌さん一人で、彼女だけで国の治安を担えというわけではないですよね? もし他に奇能を持っている方を政府は把握しているのならその方達を公人として認め、何人いて、どこにいるのか、はっきり公表されたらどうですか? そうすることで国民の不安を払拭できると思うのですが?」


 ◆ ◆ ◆


 テレビ画面の中の野党議員は奇能を持つ者、すなわち先導者について質問をしていた。


 百瀬と同じ奇能を持つ者として、ドキリとした莉沙は贄村へと視線を送る。


 だが、彼は莉沙の方を見ることなく、テレビ画面へと目を向けたままだった。

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