第39話.女王の約束①

 鏡原かがみはらみゆりは公園で出会った少年、高梨涼太たかなしりょうたにこっそりと連絡を取っていた。


 別に涼太の相手をする必要性もないのだが、兄弟姉妹もなく、また同年代の親友と呼べる人もなく、金の為に歳上の男性の相手をしていたみゆりにとって、歳下の人間と関わるのはとても新鮮なものだった。


 特に家出してからというもの、ここ最近はケロッキー以外の人物と繋がりを持っていない。


 それに涼太と交わしたメタアースの世界へ連れて行ってあげるという約束。


 何故だか、無性にこの約束を果たしたくなった。


 自分がこの世界の女王だという僅かながらに芽生えた意識が、メタアースを他人に見せびらかしたいという欲求を生み、そうさせるのかもしれない。


「じゃ、行ってくるっすから。留守番、よろしくっす」


 ある日曜日、ケロッキーはみゆりに言った。


 ケロッキーは時々買い出しと、みゆりの知らないどこかへ出掛けていく。


 その日は夕方まで帰らない。


「何時ぐらいに帰れそう?」


 念の為にみゆりはケロッキーに訊いた。


「いつもどおり、夕方の6時くらいっすかね」


「うん、わかった。わたしはメタアースで遊んでるから。行ってらっしゃい」


「昼ごはんは冷蔵庫にある物で適当に食べといて欲しいっす。残ってる冷凍食品、全部食べちゃってもいいっすから。今日新しく買ってくるんで。じゃ」


 そんな会話をみゆりと交わした後、ケロッキーは出かけて行った。


 それを確認した後、みゆりは寝転がっていたソファーからすぐさま起き上がる。


 そしてスマホを操作して涼太に電話を掛けた。


 今日は絶好の日曜日。


 涼太も小学校が休みのはずだ。


「あ、もしもし涼太くん? わたし、みゆりだけど。もしかして今日暇だったりする? それなら前に約束したメタアースに連れてってあげようと思うんだけど。大丈夫? ならさ、今から垣屋駅まで来れる? わたし迎えに行くから」


 みゆりがそう言うと、電話の向こうの涼太も嬉しそうに了承してくれた。


 そんな彼の弾む声を聞いて、みゆり自身も久しぶりに胸がワクワクする。


 彼との電話を切った後、みゆりはすぐさま外出の準備を始めた。

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