第34話.公園の少年②

 鏡原かがみはらみゆりの目の先で、手に持った縄跳びで自らの首を絞め始めた少年。


 自死でもしようというのだろうか。


 それにしてはおかしな方法だ。


 あれでは首が完全に絞まる前に、苦しさから手から力が抜けてしまい、死ぬことはできない。


 案の定、間もなく少年は酷く咳き込んで、縄跳びを首から外してしまった。


「なにしてんの?」


 思わずみゆりは少年が座るベンチに近づき、彼に声を掛けた。


 少年はみゆりの問いかけに答えず、うつむいている。


「死のうとしてんの?」


 みゆりが訊く。


 少年は無言のまま首を左右に振った。


「死ぬ気がないんならいいけどさ。まだ若いし。っていうわたしも若いんだけど。でも死んでもいいって思ってるから人のこと言えないんだけどね」


 みゆりはそう言って、無言の少年の隣に座った。


「でも死のうと思ってないなら何で縄跳びなんか首に巻いてたの?」


 みゆりは再度、問いただす。


「……僕のおじいちゃんがロープで首が絞まって死んじゃったの。それでおじいちゃん、死ぬとき、どのくらい苦しかったのかなって思って……」


 少年は小さな声でボソボソと喋る。


「ふぅん。それでおじいちゃんと同じ体験をしようと思ったわけか。で、君のおじいちゃん、殺されたの?」


 みゆりの質問に、少年はまた首を振る。


「じゃ、自殺?」


「……わかんない。だから警察って呼ばれる人に調べてもらいにお母さんが相談に行ったって言ってた……」


「へぇ、そうなんだ」


 そう返事をすると、みゆりは言葉に詰まってしまった。


 死んでもいいと思っている自分が少年に対して可哀想だなどと同情して良いものなのだろうか。


 また、そんなことしてもおじいちゃんは生き返らないとか説教じみたことを言うのも、なんだか違和感がある。


 みゆりがあれこれ頭の中で考えているうちに、二人の間には沈黙が訪れていた。


 少年に尋ねたいことは終わったので、さっさと彼の元から離れてもいいのだが、彼をこのまま放置していくのも何故だか後ろめたい気がしたので、スマホをポケットから取り出し、少年の隣で時間を潰すことにした。


 いつの間にか公園のブランコで遊んでいた少女達はいなくなっていた。


 二人以外、誰もいない公園で沈黙の時間が経過する中、暫くして今度は少年の方から口を開いた。


「……お姉ちゃんは何で死んでもいいと思ってるの?」

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