第32話.悪魔の三人②

 夢城真樹ゆめしろまきは頬張ったエクレアを咀嚼しながら、贄村囚にえむらしゅうの大机へと駆け寄った。


 彼の背後から机の上のパソコンを覗き込む。


「あら、これは?」


 真樹が訊く。


「メタアース……、ネット空間での仮想世界だ」


 贄村が答えた。


「今話題のヤツね! この黒山羊さんみたいなのがシュウのアバター?」


「あぁ」


「それでまいちゃんはどこに?」


「ここだ……」


 贄村のアバターが進んだ先には白い建物。


 その建物に掲げられた看板には『マザー舞の愛の新世界』とピンクの文字で記されている。


「そういえば舞ちゃん、髪の毛をピンクにして以前と雰囲気変わってて、しかも聖音きよね側の先導者と組んで何かおかしなこと始めてたのよね。前に同じ聖音のとこのアイドル崩れから聞いたわ」


 真樹はそう言って、口の周りについたチョコを舌で舐め取った。


「以前、わたしと舞と、あとハンバーガーショップでバイトしてた神側の子と三人で会ったんだけど、そのときに舞が終末は起きなかったから自分達で新世界を創るとか言っててさ、それでわたしも誘われたんだけど……、あれって実際に行動してたんだ?」


 ソファーに座っている緑門莉沙りょくもんりさが口を開いた。


「じゃあ、舞ちゃんはもうあたし達と一緒に理の新世界は創らないってこと?」


 真樹が二人に訊く。


「さあ、わからないけど……。もし学校に来てるのなら探し出して本人に直接聞いてみようか?」


 莉沙が言う。


「いずれにせよ、我々に弓を引く存在となるならば、舞には粛清の対象として消えてもらうことになる……」


 贄村は机の上で手を組み、獣が唸るような低い声で言った。


 室内は莉沙が唾を飲み込む音がはっきり認識できるほど静まり返っている。


「ま、まぁ、舞を粛清するのはさ、ちょっと待ってよ。わたしが一度会って話してみるから……。それからでも……いいでしょ?」


 静寂の中、莉沙が提案する。


 贄村は無言で頷いた。


「聖音達も自分のとこの先導者が舞ちゃんに取られて戦力ダウンだけど、あたし達も舞ちゃんが減って戦力ダウンよね。しかも探偵の鬼童院きどういんさんとも全然連絡取れないし、行方もわからないし。一体どこで何をやってるんだか」


 真樹は腕を組んだ。


「…‥我々も理の新世界創世の為に乗り込むぞ。メタアースに」


 贄村はパソコンのディスプレイに広がるメタアースの世界を鋭い眼差しで見詰めながら、真樹と莉沙に伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る