第30話.愁訴の列
路上でライブをしようにも、救いを訴える人が多く、話を聞くことに時間を使ってしまい、歌うどころではない。
しかも最近は身内が何者かに殺されたのではないか、調べて欲しいという者の数が増えた。
「わたしのおじいちゃんが後頭部を殴られたような傷を負って庭で倒れてたんです。病院に運ばれた時にはもう亡くなってて……」
女子高生が悲しげな表情で百瀬に伝える。
「それは辛いね」
百瀬は同情の言葉を掛けた。
「お願いです。誰がおじいちゃんをこんな目に遭わせたのか、犯人を調べてください!」
女子高生は切実に訴えてくる。
「わ、わかった。わたしにどこまでできるけど……、とりあえずちからになれるよう頑張るからちょっと待ってて」
百瀬は彼女の連絡先を聞き、今日のところは引き取ってもらった。
女子高生の次は中年の女性が相談相手だった。
「うちの父が刃物で切られたような傷を負って亡くなったんです! お願いです、どうか誰がやったのか探し出してください! そして先導者様の奇能で犯人に罰を!」
中年の女性は涙で声を詰まらせながら訴える。
「あ、あの、えっと、わたしでどこまでできるかわからないけど一応、やってみます……」
百瀬はその中年女性も
だが、その間も百瀬への相談に並ぶ依頼人の列は延びる一方だった。
百瀬は慌ててスマートフォンを取り出した。
『もしもし、きよねっち? あの、ごめんだけど助けて!』
百瀬は
『どうしたん? ももせ』
電話に出た聖音が心配そうな声で訊いてくる。
『なんか奇能を持ってる人が警察だって政府が言ったせいで、わたしのもとに身内が誰かに殺されたかもしれないから調査してって人がいっぱい集まってきて、わたし一人じゃ対応しきれなくて……』
百瀬は焦った声で窮状を訴える。
『わかった! 今どこにおるん?』
『場所はわたしがいつもライブしてる広場の……』
百瀬は自分がいる場所を伝える。
『よし、ちょっと待ってて。すぐ行くわ!』
百瀬が聖音と電話している最中にも、幾人かがパニックを起こしたかのように泣いて訴えてきていた。
「早く私の家族の話も聞いてください!」
「わたし、やった人に思い当たる人がいるんです! 早く調べてくれないと逃げちゃうかも」
「一秒でも早く母の無念を晴らしてください。でないと、私達家族は毎日が地獄です……!」
「遺族は悲しんでるんだよ! 少しでも悲しみを癒すためにも早くやってくれよ!」
中には悲しみを苛立ちに変え、百瀬にぶつけてくる人もいる。
「奇能持ってる警察はアンタひとりじゃないんだろ!? 他の奴らも呼べよ!」
神の先導者として、遺族の悲しみをじっと耐えて聞いていた百瀬だったが、
「身内が亡くなって辛いのはわかるけど、それぞれが勝手なことばかり言うな! それぞれオーダーメイドで救えるかー!」
相談者達に対し、つい声を荒らげてしまった。
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