第29話.対立する二つのコミュニティ

 信者の寄付金で借りたマンションの部屋に集まった愛の世界創世を目指す、天象舞てんしょうまい成星純真なりぼしじゅんま南善寺小咲芽なんぜんじこさめの三人は、ここで仮想世界メタアースでの活動を行っていた。


「メタアース内でも着実に『愛の新世界』の信者数が増えています。マザー舞」


 パソコンに向かっている純真が声を弾ませ言った。


「心強いことですね。やはり多くの人が愛に飢え、愛を求めているのでしょう。わたし達が神と悪魔の垣根を越え結束したように、多くの人が国籍や性別、地位などを超えて力を合わせれば、今の不公平な世界を変え、理想的な愛の新世界を創ることができます」


 舞は優しく微笑みながら答える。


「でもわたくし達の真似をして『自由の新世界』というものを創ろうとしている一団が現れたようです」


 メタアース用のゴーグル付きヘッドギアを被った小咲芽が言った。


「まあ! ほんとうですか、シスター小咲芽。それについてなにかご存じですか? ブラザー純真」


 舞が訊く。


「はい、マザー。そのコミュニティのリーダーは今人気のライバー『ちなふきん』こと、影鳥智奈かげどりちなです。もともといたファンを礎に、我々と同じく自由の新世界の創世を目指しているようです」


「わたし達は全ての人に等しく愛を与える存在を目指しています。その方達とも素晴らしい新世界が創れるように、お互いに手を取り協力し合えれば良いですね。ただ、その方達が人の形をした生きているゴミ、つまり生きごみではなければ、の話ですが」


「それが、どうやらそのちなふきんのファンが我々を攻撃しているようなのです」


 純真は『愛の新世界』の公式SNSを舞に見せた。


 そこには、


[愛の新世界ってこんなインチキ信じる奴、頭大丈夫か? どう見ても自由の新世界の方が実現可能なんだけど]

[ちなふきんの真似して新世界創世を掲げ、信者からお布施をむしり取るカルト教団。そしてそんな詐欺教祖に騙されるとも知らず煽られ暴れる馬鹿信者達]

[平等な新世界にしたいならちなふきんに投げ銭しろよw そしたらこんな宗教と違って有益に使ってくれるよw]


 などという、罵詈雑言とも誹謗中傷とも取れる投稿がいくつもされていた。


「……残念ながら生きごみのようですね。支持者は支持される存在を写す鏡でもあるのです。この感じではそのちなふきんの質もどれほどのものかわかりますね」


 舞はパソコンの画面から目を離すと、純真と小咲芽に向け引きった笑顔を見せた。

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