第26話.幼稚な争い③

 夢城真樹ゆめしろまき福地聖音ふくちきよねが紙芝居を披露し、他の子ども達がはしゃぐ中、一人で浮かない顔をして膝を抱えている少年は涼太りょうたと言った。


「あれ、涼太くん、どうしたん? 紙芝居、面白くなかった? あっ、それとも迎えに来てくれるおじいちゃんが恋しくなったかな?」


 彼に気づいた聖音が優しく声をかける。


 涼太はうつむきながら首を振った。


「あっ、あの、きよね先生、ちょっと……」


 先輩指導員が呼んだ。


「はい?」


「お二人に言ったなかったんだけど、実は涼太くんのお祖父じい様、この間亡くなっちゃって……」


 声を潜めて聖音と真樹に教えた。


「えっ!?」


 二人は声を揃えて驚く。


「涼太くん、おじいちゃん子だったから……、それで気落ちしてるんだと思う」


 先輩指導員は聖音と真樹にそっと告げる。


「そうやったんや……。そんなこととは知らずに、うちは可哀想な聞いちゃって……」


 聖音は申し訳なさそうな面持ちで困惑している。


「ほんとにデリカシーの無い女ね」


 真樹が腕組みして言った。


「オマエやって知らんかったやろ! でもなんで……? ついこの前来られたときはとても元気で健康そうやったのに……。もしかして事故とかですか?」


 聖音が訊く。


「それが……、首を吊っての自殺らしいの……」


「えっ!? そんな……。ここにいらした時はうちらにも笑顔で挨拶してくれて、とても命を絶つような人には……」


 意外だった先輩指導員の言葉に聖音は驚いた。


「自殺する様子は見られなかった……。とすると、これはきっと三味線屋の仕事ね」


 真樹が真面目な顔つきで言う。


「オマエは人の死までギャグにしようとして……!」


 聖音と真樹は取っ組み合いを始めた。


「まあまあ、お二人とも。そんなわけで涼太くんの前では気をつけてね。なんとかわたし達で元気づけてあげられたらいいんだけど……」


 先輩指導員も聖音と同じく涼太の悲しみに共感しているようだ。


 ただ、涼太の祖父が首を吊って死亡した日、紐のような物で何度も殴打された跡がある遺体が発見されたという小さな事件がニュースとして流れていたことを、三人の誰も気づいていなかった。

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