第27話.地下空間での暮らし

 ケロッキーが創った仮想世界、メタアースの拠点となっている廃工場の地下空間。


 家出をしてそこに住み着くようになった鏡原かがみはらみゆりは、地下空間にもかかわらずしっかりと完備されたシャワーを浴び、バスタオルで頭を拭きながら下着姿でパソコンやIT機器が並んでいるリビングへと向かった。


「ここって地下なのにシャワーもあるんだ。超便利だね」


 パソコンの画面を見ながらマウスを動かすケロッキーに声を掛けた。


「一応、最低限の生活はできるように整えてあるっすから。ここにいつまでいてもいいっすよ」


 パソコンのモニターに顔を向けたままケロッキーが返事をした。


「さっきから何見てんの?」


「……事件のニュース」


「やっぱ、わたしが行方不明になったこと、ニュースになってる?」


 みゆりはミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けながら、懸念していることを訊いた。


「ううん、別に」


 ケロッキーは振り返ることなく答えた。


「そっか……。ま、あの親じゃ、わたしがいなくなったところで心配しないか」


 みゆりはため息を吐くと、下着姿のままソファーに腰を沈めた。


「……どっちにしろこの世界じゃ都合の悪いニュースは消せるから」


「え?」


「いや……、なんでもないっす。それよりも着々とみゆりの元に換金依頼がきてるっすよ。どんどん手数料が貯まるっすね」


「そうなんだ。でもわたしよくわかんないから、そのへん任せる」


 みゆりはペットボトルの水に口をつけた。


「それにメタアースの人口も増えていってるっすよ。しかもほら、インフルエンサーとして有名な人気ライバーのちなふきんまで」


「マジ? ちなふきんって自分の世界持っててかっこよくてさ、わたしも好きだよ」


「メタアースで自由の世界を創るそうっす」


「わたしもその国の住人になろうかな」


 そう言って、みゆりは足を組む。


「この世界も上手く機能してるようだし、そろそろモンスターの森を一般にも解放しますかね」


 ケロッキーがポツリと言った。


「あれ、あそこ、誰でも行けたわけじゃないんだ?」


 ケロッキーはみゆりのその質問には答えず、


「みゆり、ここで暮らすつもりならあまり出歩かないで欲しいっす。不要不急の用事以外は外に出ないぐらいのつもりで」


 と告げた。


「えー、それって引きこもり生活じゃん。でも、ま、わたしも知ってる人に会いたくないからね。それにここ、快適だし。でもさ、ここって洗濯機ないよね?」


 みゆりはふと気になったことを訊いた。


「……ボクがみゆりの洗濯物も一緒に持ってコインランドリーへ行ってくるっすよ」


 ケロッキーが答える。


「えー、なんか嫌だ。他人に自分の下着洗ってもらうの」


 とは言うものの、ここに居候させてもらってる身ではあるし、あまり出歩くなとのことなので、みゆりはケロッキーの言葉に甘えることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る