第25話.幼稚な争い②
バイト先である児童館の先輩指導員に紙芝居を制作するよう依頼された
日付も変わり、いよいよ子ども達に作った紙芝居を披露する時間だ。
「今日は新人先生のまき先生ときよね先生がみんなに紙芝居作ってくれたよー」
先輩指導員が集まった子ども達に告げる。
子ども達から歓声が上がった。
「じゃあまずはきよね先生の紙芝居から。みんな拍手!」
小さな手が鳴らす拍手に迎えられた聖音が努めて笑顔で子ども達の前に立つ。
「今日はね、みんなに楽しんでもらおうと思って先生、頑張って紙芝居作ってきたでー。お話は『ウサギとカメ』。みんな知ってるかなー?」
聖音が耳に手を当て、子ども達に訊く。
「知ってるー!」「知ってるー!」と子ども達の元気で楽しげな声が響いた。
「むかしむかし、あるところにカメさんとウサギさんがおりました……」
明るい雰囲気の中、聖音は自らが描いた可愛らしい絵の紙芝居を子ども達に読み聞かせ始める。
熱心に見入る子ども達。
「ということで、みんなもカメさんのようにコツコツ努力することを忘れたらあかんよ。わかったかなー?」
最後に聖音は再度、耳に手を当て子ども達に向けて問いかけた。
「わかったー!」「わかったー!」と元気な返事で溢れる室内。
その声を聞いた聖音は得意顔で真樹の方へと視線を送る。
そんな彼女の顔を見た真樹は、腹を抱えて大笑いした。
「な、何がおかしいねん!?」
聖音が一変して怒りの表情へと変わる。
「情報が溢れて常に新しい刺激を求めてる現代っ子に、ウサギとカメだって! 笑わさないで。ゲラゲラ!!」
真樹は馬鹿にするように嘲笑する。
「なに言うとうねん! 名作は時代を超えても名作やろ!」
聖音の怒りもヒートアップする。
「ま、まあ、お二人とも落ち着いて。きよね先生の紙芝居、とってもよかったわ。それじゃ、続いてまき先生の紙芝居を見てみましょうね。みんな拍手!」
間に入った先輩指導員が二人を
可愛らしい拍手の中、真樹は一つ咳払いをすると、自分の制作した紙芝居を持って子ども達の前に立った。
「あたしの紙芝居はね、ウサギとカメみたいな退屈なお話じゃないですよー。あたしの紙芝居はというと……、じゃん!『濡れた団地妻 愛欲の無間地獄』! みんな知ってるかしらー?」
真樹は耳に手を当て子ども達に訊く。
「知らなーい!」「知らなーい!」子ども達の元気な声が響いた。
「えー、春の訪れが感じられる昼下がり、夫が出張中の景子は……」
真樹は自らが描いてきた劇画調の紙芝居を読み聞かせ始める。
「コラコラ!!」
「まき先生、ちょ、ちょっとちょっと!!」
聖音と先輩指導員、二人で真樹の紙芝居を止めた。
「こんな話、子どもに聞かせんなや!」
聖音が怒る。
「まき先生、ちょっとこのお話はダメよ。ふさわしくないわ」
先輩指導員も困惑している。
「あら、これ、あたしが感性を磨くために読んでる好きな官能小説なんですけど」
真樹は平然と答えた。
「あいみょんか、オマエは!」
「まさかこんな紙芝居を作ってくるなんて……。えっと、それじゃあみんな、ちょっと早いけど今日の新人先生のおはなし会はこれでおしまい。また作ってきてもらいましょうね」
真樹と聖音のやりとりを見て、笑いながら大はしゃぎしている子ども達に先輩指導員が言った。
子ども達が楽しげに騒いでいるそんな中、一人だけ膝を抱えて浮かない表情の男児が、後方に寂しそうに座っていた。
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