第20話.女王への準備①

 鏡原かがみはらみゆりは家出した。


 今まで家を抜け出したくても行く当てがなかったが、ようやく自分の住処となりそうな場所を見つけた。


 それはケロッキーが仮想世界メタアースの拠点としている廃工場である。


 そこで暮らすことに決めた。


 自分をまともに愛しもせず、ろくに育てもしない母親の元などに居たくもない。


 今まで住んでいた家は、みゆりにとって一刻も早く抜け出したいかごも同然だった。


 そのうえあの廃工場なら、仮想世界メタアースへアクセスできる環境も整っている。


 メタアースの女王になってくれというケロッキーの願いも叶え易い。


 学校へも行かないことにした。


 あと数ヶ月で卒業式だが、残りの日を出席しなくても卒業はさせてくれるだろう。


 それにみゆりは卒業証書など別に欲しいとも思わなかった。


 彼女はあの紙切れ一枚で人を評価するこの社会に、反発心を持っていた。


 ただ懸念は廃工場で暮らすと伝えた時、ケロッキーが何と答えるかだが。


「別にいいっすよ!」


 ケロッキーはみゆりが暮らすことをあっさりと了承してくれた。


「みゆりは親と一緒にいたくないんでしょ? 血が繋がってると言っても所詮は他人。嫌な人間と一緒に暮らす必要なんてないっす。みゆりはメタアースで生きていけばいいっす!」


「ありがと。そう言ってくれると思ったよ。あとさ、ママや先生が探しにきても絶対にここにわたしがいること教えないで」


「もちろん! っていうか、ここにいることなんて絶対に誰にも気づかれないっすよ!」


 確かにまさかこんな廃工場に地下があり、そこに尋ね人がいるなど親も教師も思いもしないだろう。


 みゆりはケロッキーの発言に納得した。


「ところでさ、メタアースで女王になるのってどうするの?」


 みゆりは自らゴーグル付きのヘッドギアを被った。


 早く仮想世界で遊びたかった。


 どうやら現実から離れられる仮想世界の虜になってしまったようだ。


「ああ、それね。みゆりが女王になる方法なんだけど……。方法を教える前に、もう一つ伝えておかなきゃいけないことがあるっす」


 ケロッキーが言った。


「なに?」


「今みゆりがいるメタアースの街を出て北にしばらく行ったところに、モンスターの森って呼ばれる場所があるっす。まずはそこへ行って欲しいんすよ」


「えっ、モンスター……? なんか嫌な予感がするんだけど」


「別に大丈夫っす。みゆりが傷ついたり死んだりすることはないっすから」


「そこで何をするの?」


「モンスターを狩ってモンスターが落とすお金を得るっす。それもケロコインじゃない。リアルで使われている円のお金っす」


「円? お金を稼げるの? でもこの世界じゃ使えないんじゃない?」


 みゆりは首を傾げた。


「まあ、詳しくはモンスターの森へ行ってお金を得てからっす。じゃ、まずはモンスターを倒すための武器を買いに、街の中にある武器屋へレッツゴー!」


 武器屋があり、モンスターを倒して金銭を得るなど、メタアースは思った以上にファンタジーと現実が融合した世界のようだ。


 メタアースの面白さと不思議さを再認識したみゆりは、ケロッキーの指示に従うことにした。

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