第18話.悪魔の面談

 緑門莉沙りょくもんりさはサバト人生相談所近くにあるカフェに贄村囚にえむらしゅうを呼び出した。


「わざわざ私を呼び出して…….、何の用だ?」


 対面に座る贄村が冷たい視線で莉沙を見つめてくる。


 だが、贄村の問い掛けに莉沙は無言だった。


(どうしよう……、意識しちゃって言葉が出てこない……)


 莉沙は動揺を悟られないよう、頬杖をつく。


「……用が無いなら帰るぞ?」


 贄村が訊いた。


 その時「お待たせしました」と女性の店員が二人の頼んだホットコーヒーを運んで来た。


 二人の前にカップを置く。


 店員が「どうぞごゆっくり」と去っていった後、莉沙はそのタイミングで口を開いた。


真樹まきちゃん、バイト始めたんだってね……」


「ああ、なんでも子供相手の仕事らしい。奴に勤まるのか疑問だが……。ただ、それは私の質問の答えになっていない。もう一度訊く。私を呼び出したのは何の用だ?」


 焦った莉沙は慌てて言葉を繋ぐ。


「あの、わたし達、先導者として選ばれて奇能きのうをもらったけど……、新世界は創れるの?」


 莉沙はテーブルに頬杖をつきながら訊いた。


「新世界は必ず創る。そうでないと貴様達、人間は過ちを繰り返し続ける」


「でも、終末は起こらなかったんでしょ?」


「終末以外にも新世界を創世する方法がある……。例えば今はちまたで話題となっている仮想世界を利用する方法を考えている」


「ふぅん……。わたし、そういうのあまり詳しくないけど」


「その時には、莉沙の力も貸して貰うつもりだ……」


 その贄村の言葉に莉沙の胸がときめいた。


 尚更、莉沙の動揺が大きくなる。


「莉沙の用とは新世界創生について聞きたかったのか? では用件が終わったなら帰るぞ」


 贄村が言った。


「贄村さんは……、誰かを好きになったり、恋することはないの? たとえば真樹ちゃんとか」


 莉沙は贄村を留めるように、新たな質問を繰り出した。


「恋だと……? そんなくだらぬ感情のせいで人生を狂わせた人間がどれだけいると思っているのだ。貴様はまだそんな情に囚われているのか? それでは理の新世界の先導者として任せられないな」


「でもさ、恋愛って感情がないと……、人間は子供を産まなくなって滅びちゃうんじゃない?」


「恋愛という感情があっても子供を産まない人間はいるが? それに世の中を見てみろ。未熟な者が親になったばかりに、虐待により子が殺され、またろくに教育もできずに犯罪者を生野に放つ……。まさに不幸の連鎖だ。こんなことでは野放図に人間に産ませるわけにはいかない。選ばれた者だけが子孫を残す統率された世界を私が創る」


「そういうのってさ……、なんていうの、優生思想っていうので……、良くないんじゃない?」


「何故、良くない?」


「何故って……」


「人間が人間を選別するから間違いを犯す。我々、悪魔が理に則り人間を選別すれば間違いは起こらず、理想の世界が出来る。その世界創世の為に、貴様を先導者に選んだのだぞ。この程度のつまらぬ悩みで揺らぐようでは、先導者を辞めてもらう羽目になる。そして私の手で粛清することになるが……」


 贄村が鋭い眼差しで莉沙を睨んだ。


「あ、あの、ごめんなさい……」


 莉沙は思わず謝罪の言葉を口にした。


「期が熟した時には、莉沙にもしっかりと先導者としての役目を果たしてもらう。その為にもっと情より理に従うよう頭を切り替えておくがいい。さて、私は忙しい。これ以上は付き合っていられない。帰るぞ……」


 そう言って贄村は椅子から腰を上げ、テーブルにある伝票を手に取り、カフェから出て行った。


 コーヒーカップを前に一人残された莉沙。


 莉沙の分の支払いも贄村がしてくれたようだ。


 先程、贄村に冷たくあしらわれた莉沙だが、何故か頭の中はぽうっと火照っていた。


 心地良い気分が彼女を支配している。


(もしかして、わたしって……、冷たくされると燃えるタイプだったとか?)

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