第17話.愛の指導※

 自由の新世界を目指す者達より先に、仮想世界メタアースへと乗り出していた天象舞てんしょうまい成星純真なりぼしじゅんま南善寺小咲芽なんぜんじこさめの愛の新世界を目指す三人は、メタアース内唯一の宗教として『聖母マザー舞の愛の世界』の会員を順調に増やしていた。


 さらに会員増加の為、三人の結束を高めようと一番年若の小咲芽に対し、舞は人間にとって大切な愛の行為を指導することにした。


 眼前に置かれたベッドで純真との行為を目を逸らさずに見るよう舞に命じられた小咲芽は椅子に座り、身を硬くしている。


 そんな小咲芽を前に舞と純真はベッドの上で全裸になり、互いに唇と舌を触れ合わせ、彼女の前で性交を始めた。


(これが……愛を育む行為……)


 目の前で舞達が行っていることは、学校で習った性教育以上の知識が無い小咲芽にとって未知の行為。


 そんな小咲芽の目を憚らず、やがて舞は大声で喘ぎ始めた。


 一方の純真は舞の期待に応えようと、必死の形相で舞の股へ自らの腰を打ちつけていた。


(目を背けてはいけない。これは人同士が愛を育むための尊い行為……。わたくしもいずれ好意を寄せた男性ができたときには、避けては通れない行為……)


 小咲芽はぴったりと閉じた膝の上で小さな掌をぎゅっと握り締める。


 だが、普段目にしたことがない舞と純真の姿に何故か恐怖心が芽生え、彼女の目からは涙が零れそうになった。


 やがて二人の悦楽の行為が終わり、肩で息をし余韻に浸っている舞が、小咲芽に対し優しい声で話しかけた。


「シスター小咲芽、さあ、わたしのお腹にあるブラザー純真が生み出した白い愛の結晶を拭き取ってください」


「あっ、はい」


 小咲芽は慌ててティッシュを取り出し、舞の腹上にある粘つく白い液体を拭き取る。


「どうでしたか、わたしとブラザーの行為を見てシスターは勉強になりましたか? これはね、新しい命を紡ぐ大切な行為。まだわたしにはやるべきことがあるため、この度はブラザーには受胎を避けて頂きましたが、こうして人間はずっと命と愛を繋いできたのですよ。見慣れないことでシスターは驚かれたかもしれませんが、決して目を背ける恥ずかしいことではないのです。わたしは胸を張ってこの行為を肯定しています」


 舞が諭すように小咲芽に語りかける。


「は、はい。とても勉強になりました」


 そう答えたものの、自分が何よりも嫌う父親が舞達と同じ行為により自分を誕生させたのだと思うと、小咲芽の内心には他人に傷口を舐められたようなおぞましい感情が湧いてきた。


 思わず吐き気を催し、小咲芽は嘔吐えずく。


「どうした、シスター。大丈夫ですか?」


 舞と同じように肩で息をしながら、純真が声を掛けた。


「あっ、あの、大丈夫です……」


 小咲芽は服の袖で口もとを押さえながら答えた。


「さて、わたし達を慕ってくれる皆さん誰もが、このように愛に満ちた充実した日々を送ってもらいたいものですが……」


 全裸だった身体にバスタオルを巻き、舞が言う。


「そうですね。誰も漏れることなく自分に合ったパートナーを見つけ共に愛し合う、それこそ愛の新世界というものです」


 純真が答えた。


「でも全ての会員さんがパートナーを見つけるにはどうしたら……」


 小咲芽が訊く。


「それはわたしがマッチングします。わたし達に賛同してくれる方はみんな愛を知る方。お互いにわかりあえるでしょう。なるべく落ちこぼれる人がないよう、メタアースのパーソナルデータから『愛の世界』の会員同士、それぞれに合う人を選びます」


 舞が自分の考えを伝えた。


「それは良いアイデアだ、マザー。マザーが選んだ相手ならみんな納得してくれることでしょう。ただメタアースでは、互いの体を直接触れ合うことができません。さきほどのマザーとの愛の行為ができないので、新しい命を紡ぐことができません」


 純真が問題点を口にする。


「そうですね、ブラザー。メタアース内で愛の新世界を創世したとしても、やはりそれがリアルの世界でないと……。会員の皆さんは救われませんね。なんとかこのメタアースを現実の世界に変換することができれば良いのですが……」


 だが、そんな方法があるわけもなく、三人とも黙りこくってしまった。


 先程まで舞の嬌声と純真が身体を打ちつける音が響いていたその部屋は、一転して静寂で占められた。

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