第14話.二度目の仮想世界②

「経験値を貯めるには相手の喜ぶことをするっす!」


 ヘッドギアを被った鏡原かがみはらみゆりにケロッキーが言った。


「えっ、相手の喜ぶこと?」


「たとえばだけど、挨拶をする、相手を褒める、欲しい物をあげる、何かあったらかばうエトセトラ、エトセトラ……」


「そうすれば、経験値が上がるの?」


「そうっす! 経験値が上がるっていうのは、すなわち人間力を上げることとイコールなんすよ。この世界では叩くより称え合おうの精神っす!」


「へぇ、変わってるね。なんか良い世の中になりそう」 


「しかもすごいのはその経験値に応じて、この世界ではケロコインが報酬としてもらえるっす!」


「相手のためになることをしたらお金になるの?」


「そうっすよ! すごくないっすか!? 良い人間になればなるほどお金持ちになれる。これなら就職活動で大変な思いをしてまで何社も回ったりする必要ないし、盗みや詐欺で稼ぐ必要もない。まったく新しい生き方っす! しかも富を独占する者もいない」


「すごい良いと思うけど……。ってか、そんな世界ってほんとにできるのって感じ」


「できるっすよ、ボクならね。でもボクひとりの力じゃこの新しい世界を創るのは大変。だからこの世界を完璧なものにするために、みゆりの力を借りたかったんっすよ」


『新しい世界を創る』。


 この言葉はみゆりには壮大過ぎてピンとこなかったものの、何か高揚感のようなものは感じていた。


「挨拶って誰でもいいの?」


 みゆりはケロッキーに訊く。


「誰でもいいっすよ。相手が喜べば」


「じゃ、とりあえず道歩いてる人に……」


 みゆりは目についた男性キャラに近づいた。


「こんにちは。はじめまして」


 喋るとヘッドギアのマイクが音声を文字にしてくれた。


「ヒミコさん、こんにちは! よろしくお願いします!」


 相手も返事をして、手を振ってくれた。


「あ、なんか楽しい、これ」


 みゆりがケロッキーに言う。


「みゆりが喜んだから相手の人にも経験値が入ってるっすよ。反対に相手も喜んだから、ほらみゆりにも経験値が」


 確認してみると、確かに経験値が1EXP入っている。


「あ、ほんとだ。でも少ないね」


「挨拶ぐらいじゃあね。でもボクの言ったこと、ほんとでしょ? ただし相手の嫌がることをしたら経験値が下がるからその点は気をつけて」


 ケロッキーの言葉にみゆりは頷いた。


 どうやらケロッキーの言う通り、この仮想の世界なら今までの虚無的で苦痛な生活から抜け出せる、みゆりにはそんな気がした。

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