第13話.二度目の仮想世界①

 鏡原かがみはらみゆりは、学校帰りに以前ケロッキーと名乗る人物に連れられてきた廃工場へと、再び訪れた。


 こんな廃工場に制服を着た女子高生が入っていくところを他人が見たら奇異に映るだろう。


 みゆり周囲を見回し、通行人がいないのを確認すると、素早く中へ足踏み入れた。


 内部は相変わらず陰気で薄暗く、やはり気味が悪い場所だ。


 しかしこんな廃工場の地下に、最新のIT機器が並んでいる。


 恐らくここの前を通る通行人は、そんなことは誰も想像できないだろう。


 工場奥にある地下へ降りる扉を開け、みゆりは階段を下りていった。


 カツンカツンと鉄を踏む音が地下の空間に響く。


「やあ、みゆり、待ってたっすよ!」


 大きなゲーミングチェアに座ったケロッキーが、やってきたみゆりを見るなり声を掛けた。


「……おつかれ」


 みゆりもケロッキーに挨拶する。


「学校の制服もみゆりに似合ってるっすね。またここに来てくれたってことは、メタアースの女王になるって話、オッケーってことでいいっすか?」


 ケロッキーの問いかけにみゆりは頷く。


「……別に現実逃避したいわけじゃないから。単純にメタアースが楽しそうなだけ」


「別に動機なんて何でも良いっすよ。とにかくボクと一緒にメタアースを理想の世界にしていくっす!」


 ケロッキーは力強く拳を握った。


「まずは何からしたらいいの?」


 みゆりが訊く。


「じゃあ、前回のアバター残してあるから、名前決めて本格的にメタアースに参加するっす! さあ、ここに座って」


 ケロッキーの言われるがままにみゆりはゲーミングチェアに座り、以前と同じヘッドギアを被った。


「……名前、何にしよっか?」


 みゆりは特に仮想世界での名前を考えてはいなかった。


「みゆりは女王になるんだから……、ヒミコなんてどうっすか?」


 名前にこだわりなど持っていないので、ケロッキーに従うことにした。


「名前、ヒミコ。レベルは1。初心者マークが付いてる」


「初心者マークはメタアースの世界でのレベルが5になればはずれるっすよ。レベルの上げるには経験値を貯めなきゃいけないっす。その経験値の貯め方なんだけど……」


 みゆりはヘッドギアを被ったまま、ケロッキーの話に耳を傾けた。

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