第9話.金でできている女⑨(鏡原みゆり)
目の前に広がっているのはファンタジーのような仮想世界。
ここはわたしが初めて体験する世界。
「前に進むのはどうしたらいいの?」
ヘッドギアをかぶったまま、わたしはケロッキーに聞いた。
「その場で足踏みすれば前に進むっすよ」
あ、ほんとだ。
このヘッドギアを通して、わたしの体の動きとアバターが連動してるのって、なんか不思議な気分。
とりあえず、草原の先に見える高い建物のところへ行ってみよう。
ペガサスとかが空を飛ぶ草原の中に近代的なビルが建ち並んでるなんて、なんだかアンバランス。
でもそのアンバランスさが物語の世界に入り込んだみたいで、わたしをワクワクさせる。
1分ぐらい歩いて街に着くと、わたしが思ってたより人がいた。
「けっこう、人がいるね」
「誰かに目を向けて指でタップすると情報が見れるっすよ」
ケロッキーに言われた通り、ゴーグル内に映る自分のアバターの指を、なんか魔法使いみたいな姿をした人に向けてみる。
『こんにちは!フリーのwebライター、マサポンです。よろしくお願いします』
相手のハンドルネームと自己紹介が見られた。
あたしも自己紹介、入れたほうがいいかな。
ケロッキーにプロフィールの入力の仕方、教えてもらおう。
「このEXP60ってなに?」
マサポンという人のプロフィールにあった数字についてケロッキーに聞く。
「あぁ、それは……、この世界での経験値っすよ。貯まるとケロコインに変えられるっす。経験値の貯め方はまた教えるっすよ」
「ふぅん」
それからわたしは仮想世界の街の中を歩き回った。
アパレルから薬局までなんでも揃っていて、リアルな街と同じように充実していた。
「そのうちたくさんの企業がメタアースに出店してくるっすよ」
ケロッキーがわたしに言う。
教会まであった。
『
「教会まであるんだ」
「いまのところ、それがメタアース内で唯一の宗教っす」
まだ友達とか知り合いとかいないから、この仮想世界を歩き回るだけだけど、それでも見たことない景色は、毎日を暗い気持ちで過ごしていたわたしに、新しい刺激を与えてくれた。
こんな楽しい気分は久しぶり。
時間が経つのも忘れて歩き回った。
でも、さすがのわたしもヘッドギアをかぶって長時間遊んでいると疲れてくる。
「今日はここまでにしとくっすか?」
ケロッキーのその声にわたしは頷き、ヘッドギアを外した。
「どうっすか? 楽しかったっすか?」
「うん。こんなに楽しかったの久しぶり」
わたしはケロッキーに答える。
「それじゃ、ボクの言ったみゆりがこの世界の女王になるって話、引き受けてもらえるっすかね?」
ケロッキーが目を輝かせて聞いてくる。
「……それはちょっと考えさせて」
「イエス! 別にかまわないっすよ。またこの世界に来たかったらいつでもボクに連絡くれるっす! いくらでもこの工場の地下室、使わせてあげるから!」
「ありがとう」
ケロッキーに考えさせてと答えたものの、わたしの中ではほぼ答えが固まっていた。
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