第8話.金でできている女⑧(鏡原みゆり)

「ねぇ、みゆり。お金の存在が格差の原因ならどうすれば解決すると思う? どんな人でも頑張った人が頑張った分だけ報われるような、平等な世界にするにはどうすればいいと思う?」


 ケロッキーが笑顔でわたしに質問してくる。


「どうすればって……、貧乏な人にお金をあげるとか?」


「うーん、それだと半分正解。あげただけじゃ世の中は変わらなくって、そのうちまた格差ができるっすよ」


「はぁ」


 わたしは頭が悪いから、難しいことを考えるのが苦手だ。


 それにそういうことを今まで避けてきたから。


 考えたところで無駄だし。


「でも貧乏な人にお金をあげるっていうのはある意味当たってるっす。解答を言えば、お金が原因の格差を無くすにはお金の価値を無くしてやればいいんすよ。貧乏な人にお金をいくらでも次々にあげれば、酷いインフレになってお金の価値も無くなるでしょ」


「インフレって、なに?」


「あ、そっから説明?」


「ごめん、わたしバカだから」


 わたしは半笑いの表情を見せたケロッキーにイラッとした。


「インフレっていえば、まあ、わかりやすく言うと、お金がありすぎてお金の価値が下がるってことっすよ。極端な例だと、みゆりが無限にお金が出てくる財布を持ってて、他の人もその財布を持ってたら、もうお金なんていらないでしょ?」


「まぁ……」


「そしてお金の価値を無くすもうひとつの方法は、お金より価値のある物をぶつけるやり方。つまりリアルのお金よりも、この仮想世界のケロコインの方が価値があるってみんなが思えばいい」


「そんなの無理じゃない?」


「無理じゃないっすよ。なんで一万円札は一万円の価値があると思います? 誰もがみんな一万円札には一万円分の価値があると信じてるからっすよ。多くの人が信じなくなれば一万円札なんて、ただの絵が描かれた紙っすよ」


 そう言って、ケロッキーはわたしにヘッドギアとゴーグルが一体になったものを渡してきた。


「さあ、これをかぶって」


 渡された物を手に持ってみたら意外と軽い。


 これなら長時間つけてても楽そう。


 わたしはケロッキーに言われたとおり、頭につけてみる。


「わぁ、すごい……」


 思わず声が出てしまった。


 そのゴーグルの中に広がっていたのは広い草原。その遠く先には高いビルが立っていて、青空には虹。

 その空にはペガサスが飛んでいたり、竜が飛んでいたり、ファンタジーのような世界だった。


「どうっす? ボクの作ったメタアースの世界は? さあ、みゆりもこの世界の住人になるっす。まずはアバターを決めて」


 ゴーグルの中にキャラクターが現れる。


「どっ、どうすればいいの?」


「スマホを触るみたいに指や手をスライドさせるっす。決定はタップとかボタンを押す仕草」


 わたしはおどおどしながら、言われたとおり自分の手を左右に動かしてみる。


 するとゴーグル内に次々とキャラクターが現れた。


 人型のものから二本足で立ってる犬や猫、トカゲまで。


 さっき見たペガサスや竜、鬼、ミイラやエルフとかのモンスターもある。


 また髪の色から肌の色、服装もたくさんの中から選べた。


「さあ、みゆりの好きなアバターを選ぶっす」


 わたしは小さい頃に絵本に登場する王女に憧れていたので、金色の髪で白いドレスを着た青い瞳の女性にした。


「やっぱりこの世界の女王になるみゆりにふさわしいアバターっすね!」


 ケロッキーは褒めてくれた。


 わたしはこれでこの世界の住人なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る