第7話.金でできている女⑦(鏡原みゆり)

「すごいんだね。でも、ごめんだけどわたし、あんまり興味ないから」


 わたしは正直に思ったことを口に出した。


 ケロッキーは気を悪くするかもしれないけど、でも興味がないのはほんとうのことだから。


「えー、そーっすか? ねぇ、みゆり、ここはひとつよく考えてみるっす。毎日毎日、家でも学校でも鬱屈した時間を過ごして、しかもそれが好転する兆しもない。みゆりの日々って、そんな感じじゃないっすか? みゆりの卒業後の進路決まってる? このままだと社会のレールから外れて辛い日々が待ってるだけっすよ?」


 それをはっきり聞かれると、苦いものを口の中に入れられたような、なんか嫌な感覚が体を走る。


 わたしの毎日って刹那的で、あんまり将来のこととか考えてないから。


 先生からも進路を決めろって言われるけど、わたしは決める気はない。


 別に人生なんてどうなってもいいって思ってるから。


 それにママはわたしの進路のこと、全然気にしてないし。


「……別にそれでいいし」


 わたしはそう答えた。


「強がらなくても良いっすよ。メタアースなら、みゆりの十八年の人生、もう一度やり直せるっすよ? ここには誰でも必ず自分の能力を発揮できるコミュニティがある。メタアースにさえアクセスできれば、どんな人でも自分の生きる意味を見つけられる」


 ケロッキーはわたしに熱く語る。


 この子の言うことがほんとうだったら、どれだけ魅力的な世界だろう。


 って、わたしちょっと惹かれてるじゃん。


 わたしが黙っていたら、ケロッキーはパソコンを操作し始めた。


 そして話を続ける。


「これから人はリアルとメタアース、二つの世界で生きるっす。そしてメタアースが上手くいけば、やがてリアルもメタアースと同じ世界にするっす!」


「それができたらすごいと思うけど……、でもそんなこと、ほんとうにできるの?」


「それをボクと一緒に創るっす! みゆりに協力して欲しいっすよ!」


 ケロッキーはわたしに協力を求めた。


 でも、そんなこと言われても……。


「わたしにできるかな? 全然、こういったものの知識ないんだけど」


 わたしは不安を口にする。


「大丈夫! みゆりはボクの言うとおりにしてくれるだけでいいっす。主にみゆりにやって欲しいことは、この仮想世界の統治の象徴、つまり王様とかっす! そう、君はこの仮想世界の女王になるんだ。すごくないっすか!?」


 えっ……、わたしが世界の女王!?


 ちょっと話がデカくない?


 でも、輝くケロッキーの目を見ているうちに、わたしはなんとなくこの話が実現しそうな、そんな気がしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る