第6話.金でできている女⑥(鏡原みゆり)

「ここは……」


 わたしの目はつい見開いてしまう。


 この目の前に広がるパソコンやモニターとか、多くの機器が並べられているオシャレな空間と、上の暗い廃工場とのギャップ。


 わたしは唖然とした。


「みゆり、ここはね、仮想世界『メタアース』を提供、管理、監視している場所なんすよ。メタアース、知ってるっすよね?」


「名前だけは……聞いたことあるけど。でもケロッキーはここでそのメタアースの何をしているの?」


「何って、ボクがこの世界を作ったから責任者として一人で管理してるんすよ」


 えっ、マジ!?


 実はケロッキーって超天才とか?


「そっ、そうなんだ……」


 わたしは何て言葉を返せばわからない。


「さらにこの仮想世界で流通しているトークンの発行及び管理もボクがしてるっす」


 トークン?


 ケロッキーはわたしが知らない言葉を使い始めた。


「なに、それ?」


「え? みゆり、トークンって言葉知らない? トークンっていうのは、まあ、ざっくり言えばこの仮想世界で使えるお金の代わりになるものっすね」


「ふーん、そうなんだ。大変だね」


 よくわかんないけど、わたしは感心しておくことにする。


「ねぇ、みゆり。世の中、なんで格差があると思うっすか?」


「なんでって……」


「生まれつき環境が整えられた何不自由のない暮らしを送ってる女の子もいれば、みゆりみたいに酷い親のもとに生まれて、自分で体を売ってお金を稼いでいる女の子もいる。それはなんで?」


「……そんなの、運じゃないの? お金持ちの親に生まれるか、わたしの親みたくろくでもない貧乏な親に生まれるかなんて、わたしには選べないし」


「たしかにそれを運と一言でいえば簡単だけど、その運を引き起こしているものは何か」


「……はぁ」


「さっきみゆりが言ったお金持ちの親に生まれるか、貧乏な親に生まれるか、つまりお金があるから格差が生まれるっす。そう、お金こそが諸悪の根源!」


 ケロッキーがわたしを指さす。


「……そんなの当たり前じゃん」


 わたしは答えた。


「なら原因がわかってるなら後は簡単。その原因を取り除けばいいんすよ」


「……そんなのケロッキーひとりでできるの?」


「みゆり、考えてみてほしいっす。お金っていうのは自然が生み出したものじゃなく、人間が生み出した概念やシステム。自然は人間のちからじゃどうしようもないけれど、人が作り上げたものならば、誰かが上手くやれば自由に思い通りに動かすことができるはず。つまりボクが目指すのは、お金をいじくってお金による格差のない世界を創ること。それをこの仮想世界で実現させてみせるっすよ」


 ケロッキーは熱く語っていた。


 でもそれはすごいことなのかもしれないけれど、頭の悪いわたしには何の関係もない気がする。

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