第5話.金でできている女⑤(鏡原みゆり)
わたしはパパ活相手(?)の謎の子にファミレスの後もつき合うことにした。
理由は簡単。
つき合うのを怖がって、わたしが酷い目に遭ってもいいって言ったのが嘘だと思われるのがムカつくから。
その子がわたしを連れて行きたい場所には電車で行くらしい。
目的の駅に着くまでの車内で、わたしはその子に聞いた。
「ねぇ、何て呼んだらいいかわからないから、名前教えて?」
「ボクの名前なんてどーでもよくないっすか? SNSでやりとりしたときのハンドルネームでいいっすよ」
「ハンドルネームったって『あ』だけじゃん。あ、なんて呼びにくいよ」
「ふぅん。そんなら、ボクのことはケロッキーって呼んでくれたらいいっすよ。ところで君は? ハンドルネームのミーチャンでいいっすか?」
「……みゆり。ほんとうの名前はみゆり」
「そーっすか。じゃあ、これからみゆりって呼ぶっす」
ケロッキーって子に名前を呼ばれて、急にだけどこのみゆりって名前、嫌いな親が付けたものだってことに、ふっと気付いた。
それからのわたし達は会話もなく無言だった。
することもないからわたしがずっとスマホを触って俯いていたら、やがてケロッキーが「次の駅で降りるっす」と言った。
わたしをどこに連れていくつもりだろう。
降りた駅は特に有名なお店や公園があるような駅じゃない。
ただの住宅街。
歩いている人も少なかった。
でもわたしにできることは、このケロッキーの後をついていくだけ。
静かな歩道を二人で歩いて行くと、やがて「ここっす」とケロッキーがある建物を指さした。
それは工場の廃墟みたいなところ。
えっ、ここ? 誰もいなさそうなここになにがあるの?
やっぱりわたしは騙されたのかもしれない。
ここで待ち構えている多くの男性に犯されるかもしれない。
色んな拷問にかけられて殺されるかもしれない。
さすがにどんなに強がっていても、わたしの中に恐怖が芽生えてきた。
ケロッキーについて廃墟の中に足を踏み入れる。
「ねぇ……、こんなところになにがあるの?」
わたしは尋ねた。
でもケロッキーは「いいから、いいから」と言って取り合わない。
廃墟の奥、太陽の光が届かなくて暗くなっているところへ行くと、床に錆びた鉄の扉があった。
「地下に下りるっす」
そう言うと、ケロッキーは取手に手をかけて扉を引き上げる。
そしてケロッキーはその中にある階段を下りていった。
「えっ、マジで?」
わたしは少したじろいだけど、もう殺されたっていいや、行き着くところまでいこうと、なぜか変な覚悟が出て、ケロッキーについていった。
階段は暗かったけど、地下の奥には灯りがついていた。
その灯りは地下だと忘れるぐらいとても明るい。
「ええっ! なにこれ?」
地下の空間に下りたわたしは、予想と違う光景に驚いた。
だってそこは、たくさんのコンピュータとか機器とかが並んだ、最新鋭な感じのオシャレなスペースだったからだ。
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