第4話.金でできている女④(鏡原みゆり)

 有名なファミレスに、今日のパパ活(?)相手の女子か男子かわからない謎の子と一緒に入った。


 ここならこの子といても不自然に見えない。


 それにメニューも豊富だ。


 ステーキ、ハンバーグ、パスタからドリアまで何でも揃ってる。


 わたしはカルボナーラとサラダを頼んだ。


 あとドリンクバー。


 相手の子はリブステーキセットを頼んでいた。


 それに加えてドリアとポテトとマルゲリータ。


 小柄な体でよく食べる子だ。


「……ところでさ、あなた女子だよね? それとも男子?」


 わたしは尋ねた。


「ボクが男か女かなんてどーでもよくないっすか?」


 その子はステーキを入れた口をモグモグ動かしながら答えた。


 なんかムカつく言い方。


 いま流行りの性の多様性?


 服が大きめのパーカーなので胸があるのかどうかわからないけど、肌と声は女だからきっと性別は女子なんだと思う。


「年はいくつ? わたしと同じぐらい?」


 わたしは続けて質問する。


「ボクの年齢が何歳かなんてどーでもよくないっすか? 要は中身っしょ。優れてるかどうか」


 なんかこの子とは、わたし合わなさそう。


 友達とか無理なタイプ。


 早くご飯終わらせてお金もらって帰りたい。


 そんな思いが頭を占める。


「ところで君はなんでこんなことしてるっすか? もしボクが危ない人だったらどうするつもりだったっすか?」


 相手の子はそう言って、ドリアをスプーンで掬い口に運んだ。


 わたしに説教?


 この子、やっぱりウザいタイプ。


「別に。ただお金のため。お金が欲しいから。それに危ない目に遭ってもいいし。わたし、死んでもかまわないと思ってるから」


 わたしはドリンクバーのメロンソーダをストローでかき混ぜながら答える。


「死んでもいいと思ってるのなら、なんでお金が欲しいっすか? 嫌な思いしてまで稼がなくても、死ねばお金いらないっすよ? 矛盾してないっすか?」


 相手の子は相変わらずモグモグ食べながら言ってくる。


 待って、マジでなんかムカつく。


 とは言っても、その子の問いかけになんて言い返せばいいか、頭に浮かばなかった。


 わたしが答えないでいると、相手の子は話を続ける。


「君はお金が欲しいんじゃない。お金を得ることで自分の存在を確かめてるんっすよ」


 童顔のくせになんだか難しそうなことを言い出した。


「……わたしがどうかなんてそういうの、別にいらない。それこそどうでもよくない?」


 わたしは呟くように言う。


「君はいまの世界、嫌いっしょ? 嫌なことをしてまで自分の存在を確認しないといけないこの世界が。だから死んでいいと思ってる。でも

 本当は、自分の意思の及ばない親ガチャにハズれ、強いられた辛い境遇をなんとかできるのものなら生きていたい。けどそれを変える方法もちからもない」


 なんでこの子はわたしのことをこんなに知ってるのだろう?


 推理?


 もしかしてわたしみたいな人と今までいっぱい会ってる?


 色々と頭の中に疑問が浮かぶ。


 でも色々とわたしのことを見透かされているのに、この子に対して不思議と恐怖心は湧かなかった。


「どうっすか? この後、もうちょっとボクに付き合わないっすか? 親ガチャにハズレた君も含め、誰もが平等になる世界を見せてあげるっすよ?」


 その子は食事をしながら、平然と有り得ないことを言い出した。


 わたしはテーブルに肘をつき、相手の子の目をじっと見つめる。


 その子は特に動揺する様子もなく、わたしと視線を合わせながらモグモグ口を動かしている。


 わたしはそんな相手の子に言った。


「……デザートにプリン、頼んでもいい?」

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