第43話.それぞれの思惑③

 人気ひとけの無い波止場。


 ちなふきんこと影鳥智奈かげどりちなは、ここにテントを張り、ねぐらを公園から波止場へと移していた。


「もう約束の時刻の1分前だぜ? 俺達の仲間って奴は初っ端から遅刻かい?」


 皇廻すめらぎめぐるが智奈に訊く。


「……来るさ」


 智奈は答えた。


 二人はテントの外で、訪れるはずの人物を待つ。


 だが智奈の返事も虚しく、彼女のスマートフォンの画面は約束の時刻、16:00を表示した。


「来なかったようだねぇ」


 廻はそう言うと、腕を上へと伸ばし欠伸をした。


 智奈の心の中にも焦りの感情が湧く。


「……思ったより住み心地よさそうじゃねぇか」


 それはまさに気を抜いた二人隙を狙ったかのようであった。


 低い男の声が二人の耳に届く。


 智奈と廻が驚いて声の方へと目を向けた。


 すると智奈のテントの中から、黒いハットを被りラウンド型のサングラスをかけた男が出てこようとしてるところだった。


「いつの間に……」


 智奈が呟く。


「このオッサンが……、俺達の仲間かよ?」


 廻が呆れた感じで言った。


「なあ、ニュース観たか? 政府がいうには俺達は警察だってよ。奇能持ちは治安維持の為に総理から任命されて活動してるそうな。全く本人も知らない、聞かされてびっくりの事実だぜ」


 男はニヤニヤ笑っている。


「おい智奈、こんなオッサン、信用できるのか? アンタもさぁ、まずは名乗ったらどうだい?」


 廻は怪訝な顔で訊いた。


「この人は鬼童院戒きどういんかい。元探偵なんだ。悪魔から奇能をもらったけど、あーしの自由の世界に共感してくれたんだ」


 智奈が事情を話す。


「そういうわけだ。よろしくな、兄ちゃん」


 鬼童院はそう言って廻に近づくと、彼の肩に手伸ばし叩いた。


 だが、廻はすぐさまその手を払い除ける。


「オッサン、初対面であんま馴れ馴れしくすんなよ。俺はまだアンタを信用しちゃいないんだ。なんなら俺の奇能でアンタをバラバラにしてやることだってできるんだぜ」


 廻が嘲笑う。


「止めときな、廻。この人も強いよ。無駄に傷つくことはないさ」


 智奈が言葉で制止した。


「はぁ? 智奈、俺がこのオッサンに負けるっていうのか?」


 廻は不服そうだ。


 相変わらず鬼童院はニヤニヤ笑っている。


「そうじゃない。どっちが勝つにしろ傷つくことには変わりない。とにかく今は無益な争いは避けて、自由の世界創世の為の仲間を一人でも増やすことが優先さ」


 智奈はそう言うと、ポケットに差していた吹き戻しを指に挟み、煙草のようにくわえると、ピュイと一度だけ吹き鳴らした。

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