第42話.それぞれの思惑②

 砌百瀬みぎりももせは病院を退院した後、外出できずに部屋に引き篭もっていた。


 その理由は暴徒に襲われた時の傷が痛むからではない。


 あの傷は自分が所属していたアイドルグループのキャプテン、皿井菊美さらいきくみが彼女の奇能きのうで治療してくれた。


 なぜもともと敵対していたはずの彼女が自分を助けたのか。


(一緒にアイドルとして頑張った仲だから……?)


 しかし、それがわざわざ看護師に化け病院に侵入してまで助けにくるほどの動機になるだろうか。


 また菊美はあの奇能を一体誰に与えられたのか。


 菊美に関する謎は多い。


 だがそれは今、百瀬が優先で思い煩うようなことではなかった。


 百瀬はスマホを取り出した。


 自分の身を守る為だったとはいえ、大勢の人前で使ってしまったカブトムシの奇能。


 そのせいで世間では騒ぎになっている。


 それに百瀬は元々有名なアイドルグループに所属していた身。


 正体もばれてしまっている。


 外を歩けば、あの能力は何だとメディアや興味を持った人達に追い回されるのは火を見るより明らかだ。


 実際にネット上では『あれ、イエスプの砌百瀬だろ??』『百瀬のあの能力なに?』『人気が落ちてなんか変な能力に目覚めたんじゃねーのか』『世間を騒がせてるんだから、百瀬は出てきてファンに説明すべき』と、いろいろな意見が投稿されている。


 また自身のSNSにも、奇能についてのコメントが大量に書きこまれていた。


(どうしたらいいんだろ……)


 自分が敬愛する福地聖音ふくちきよねにも迷惑を掛けてしまった。


 責任の取り方がわからないまま、百瀬がいつもの癖で何となくスマートフォンを触っていると、政府の記者会見のニュースがあった。


 彼女は政治には興味がない。


 いつも通り気にかけず、他のものを見ようと思った時、その記事の中にあるとあるワードが目に止まった。


(えっ……、なんで?)


 何故か政府が奇能について言及していたのだ。


 官房長官は記者会見で『いま国民の皆様が関心を寄せているカブトムシは奇能と呼ばれる治安維持の為の能力でありまして、あの持つ人物こそ警察であります。あの能力を持つ者は複数いて、総理大臣の命を受け、秘密裡に社会の治安、秩序を守る為、活動しております』と語っていた。


(わたしが警察!? 政府の命令で治安維持のために動いてる!? いやっ、それよりもなんで奇能を知ってるの……!?)


 百瀬の頭の中で今までの出来事や疑問が絡み合う。


 それは容易には解けそうになかった。

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