第35話.糸を引く者との戦い④

 贄村囚にえむらしゅうは、天帝の護法者ごほうしゃである人体模型の怪物が放った蜘蛛の糸を左腕にまとい、その人体模型の身体に力一杯叩きつけた。


 怪物は先程までと同じように瞬間移動で、贄村から逃れようとする。


「ぬっ!」


 人体模型は喫驚の声を上げた。


 蜘蛛の糸の粘着により、贄村がしっかりと一体となっていて、瞬間移動をしても彼を伴ってしまう。


 人体模型の怪物は何度も瞬間移動をして贄村を引き剥がそうとするが、蜘蛛の糸の粘着が強力な為、全く無駄な足掻きであった。


 両足を人体模型に絡めた贄村は、目を見開き雄叫びを上げると、右手の爪を鋭く立て、マネキンのように硬質な人体模型の体内へと食い込ませた。


 その爪で人体模型の内部をえぐる。


 ガラスを引っ掻くような悲鳴が6次元空間に響き渡った。


 贄村が体内から右腕を引き抜くと、血に染まった白いローブデコルテを着た人体模型は、縦に亀裂が入っていった。


「ば、馬鹿な……。思い上がった悪魔よ……。人間は人間同士、出生や地位、性別や肌の色で差別を行う愚かな生物。全てが速やかに滅びる方が良いというのに……。所詮は悪魔。人の差別を容認するというのか……」


 人体模型は頭からボロボロと崩れてゆく。


「……この私に白も黒も男も女も関係ない。悪魔にあるのは……、真か偽か、それだけだ!」


 自分のすぐ間近で姿が消えゆく天帝の護法者に対し、贄村は吐き捨てるように言った。


 眼下では人体模型が乗っていた蜘蛛も崩れていた。


 やがて護法者である人体模型の怪物が粉々になり姿を消すと、6次元空間は破れ、贄村は元の人気の無い路地に立っていた。


 彼は左右非対称の獣から人間の姿に戻った。


 足元を見ると、アスファルトの道の上には人体模型が着ていたローブデコルテが無惨にくしゃくしゃの状態で落ちていた。


 それと、蜘蛛の糸を巻きつけた贄村の左腕には、白い糸とそれに付着した人体模型の残骸が、戦いの名残なごりをとどめていた。

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