第34話.糸を引く者との戦い③

 天帝の護法者ごほうしゃ雲手魅華くもでみか変化へんげした蜘蛛に乗った人体模型の怪物。


 その不気味な容姿の怪物に贄村囚にえむらしゅうは襲い掛かる。


 彼が人体模型に手をかけた瞬間、怪物は突如姿を消した。


 贄村の指が空を掴む。


 怪物は僅か離れた場所に瞬間移動していた。


「天帝に背く愚かな悪魔よ、糸で絡め取り捕らえて食らってやる」


 面食らっている贄村に、人体模型は表情を変えず、手のひらを向け広げた。


 その手のひらの中心に開いた穴から、白い糸のようなものが噴射された。


 贄村は間一髪、かわす。


 振り返ると、噴射された糸は贄村の後方で広がり、異次元空間に蜘蛛の巣を張った。


「6次元の空間にも張り付く蜘蛛の糸。この粘り着く糸に捕らえられたなら、悪魔といえども逃れられぬ」


 怪物がそう語る隙にもう一度、贄村は怪物に飛びかかった。


 だが、結果は同じであった。


 相手を捕らえたかと思えば、瞬間移動で逃げられる。


 逆にその隙を突かれ贄村を目掛け、蜘蛛の糸が飛んできた。


 その糸は広がり、また空間に二つ目の蜘蛛の巣を張った。


 間髪おかず、贄村に三度目の蜘蛛の糸が飛んでくる。


 また躱す。


 これを幾度か繰り返した。


 このままではきりがなく、やがて捕らえられてしまう。


 先に瞬間移動をする怪物を捕らえなければならない。


 そう思っている間にも、異次元空間に蜘蛛の巣がいくつも張り巡らされていった。


 怪物は隙を与えず、蜘蛛の糸を飛ばす。


 それが贄村の左腕に命中した。


 贄村の腕に糸が粘り着く。


 その糸が広がり蜘蛛の巣を形成する前に、贄村は左腕をぐるぐる回しその糸を巻き取った。


 贄村の左腕は、わたがしのように蜘蛛の糸で覆われる。


「ほほほ、これでお前の左腕の自由は利かなくなった」


 人体模型の怪物は、表情を変えずに笑った。


 贄村を怪物の糸が更に襲う。


 糸が飛ぶ軌道を読み躱すと、贄村は怪物に接近し、糸を巻き付けた左腕を人体模型へ目掛け振り下ろした。

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