第14話.元恋人同士の再会①
ワォチューバーちなふきんこと、
「それじゃ今宵も集まってくれた自由を愛する旅人たちへ。明日も先の見えない時間の旅を、型にはまらず気ままに生きて。おやすみなさい」
彼女は配信を終えると、ポータブル電源にスマホを繋ぎ充電を始めた。
それからひと息つこうと、マグカップにインスタントコーヒーを入れた。
旅行用の小さな電気ケトルから湯を注ぐ。
カップ内が黒く染まってゆくのを眺めていたその時、智奈はテントの外で蠢く人の気配に気づいた。
その人物はどうやらこのテントを気にしてるようだ。
智奈は暫く息を潜め様子を見たが、去る気配がない。
以前襲ってきた男達のような連中だろうか。
ならば再び身を守る為に、奇能を発動する必要がある。
智奈は吹き戻しを咥え、警戒しながら外を覗いた。
公園の街灯が闇を照らす中、そこにいたのは白いコートを着た若い男だった。
「よっ!」
男は緊張感無く気楽な感じで挨拶をする。
「
智奈は男を見るなり、吹き戻しを咥えたまま小さな声で相手の名を呟いた。
「探したぜ、智奈。入って良いかい?」
廻と言う名の男は満面の笑みで訊く。
智奈はテント内に彼を入れるかどうか逡巡したが、ピュイと吹き戻しを吹くと、廻がテント内へ入ることを許した。
廻は身を屈めて「んじゃ、お邪魔します」と、嬉しそうに中へと入ってきた。
「‥‥コーヒー飲むかい?」
智奈はコートを脱いでいる廻に訊いた。
「おっ、サンキュー」
廻は初めて訪れたにもかかわらず、慣れ親しんだ場所のように
「……何しに来たのさ?」
そんな廻に智奈は尋ねた。
「別にヨリを戻しに来た、なんてことは言わないぜ。少なくとも今夜は」
廻は智奈の横顔を見つめている。
智奈は廻の視線を無視し、彼にコーヒーを差し出した。
「あーしはヨリを戻す気はないよ」
智奈は煙草のように指に挟んでいた吹き戻しを咥え直し、ピュイと音を鳴らした。
「付き合ってたJK時代はロングの金髪に眼鏡ギャルだったのに、今はショートの銀髪にコンタクトか。ずいぶんとイメージが変わるもんだね。でもいまの智奈も可愛いぜ」
「そうかい? ありがとうって一応、お礼を言っとく。でも嬉しくないな。あーしを女って性で決めつけて見られてる気がするからさ」
「性別にこだわってるのは智奈じゃないか? 俺はただ素直に可愛いものを可愛いと言っただけだぜ。それに俺達は男と女だったから互いに好意を持ち、交際した」
「そう。そしてあーしは、君と付き合っているうちに、自由を引き換えにする恋愛というものに自分が向いていないということに気づいた」
廻は熱いコーヒーを急いで飲み干しマグカップを空にすると、智奈の肩に手を回した。
「……この手は恋愛感情から?」
智奈は廻に確認を取る。
「いいや違う。今夜はあくまで可愛いものに対するスキンシップだ。俺のこと、嫌いになったわけじゃないんだろ?」
今度は廻が確認を取る。
「……嫌いならテントの中に入れてないさ」
それを聞いた廻は、ゆっくりと智奈を押し倒した。
「ちょっと……。さっき会ったばかりだよ」
智奈が戸惑ったように呟いた。
「オレと別れてる間に、誰か他の男に抱かれた?」
廻が訊く。
「……誰にも抱かれてないよ」
智奈の胸が早鐘を打つ。
「こんなもの咥えてちゃキスできないだろ?」
廻はそう言うと、吹き戻しをそっと指で摘み、智奈の口から取り除いた。
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