第15話.元恋人同士の再会②
「……髪すごい乱れてる」
静かな公園の夜明け、テントの外からは鳥の囀る声が聞こえる。
「よっ、おはよう」
狭いテントの中、智奈の横で眠っていた
「再会したばかりなのに、俺を受け入れてくれるなんて、嬉しかったぜ」
「あーしは性の営みに、深い意味を持たせたりはしないさ。自由でいい。あーしも久しぶりにしたかったし」
智奈はリュックの中からブラシを取り出した。
「智奈は前から声が小さかったけど、とうとう出さなくなったのかい?」
廻が訊く。
「……忘れてるかもだけど、ここ公園だよ? 夜中とは言え、通行人がいたらどうするのさ。それとすぐにシャワー浴びれないから、できればテントではしたくなかったんだけど」
「そっか。悪かったな、体を唾液まみれにして」
「……バカ」
智奈は髪を
「ところでさ、つい智奈肌恋しくて抱いたけど、目的は別にあるんだ」
廻が話を切り出す。
「そう。結局君は何をしに来たんだい?」
「智奈に聞きたいことがあるんだけど。なんでも天帝の
「どうして知ってるのさ?」
「同じ護法者の
「……ああ、あの女性か」
智奈はブラシを置く。
「でさ、その人に裏切り者の智奈を探して酷い目に遭わせろって言われてさ、俺はやってきたわけ」
「あーしを粛清するのかい?」
「まあね」
「それで、消す前にあーしをもう一度抱いておこうって思ったわけか。最低だね」
「……なんで裏切ったんだよ?」
「あーしはこの束縛ばかりの世界が嫌だった。
しきたり、校則、慣習、年齢、性別……、それらに縛られる社会にうんざりしてた。だから天帝の中間者になって、この世界を終わらせて新世界で生きてみたかった」
「それは知ってるよ。でも裏切ったら、新世界に行けないじゃないか」
「結局、天帝の護法者もあーしを縛ったのさ。護法者の
「なるほどね。まあ、智奈の言いたいこともわかるけどさ、多少の束縛も秩序の為には必要なんじゃない?」
「それさ。そんなものに頼らなくても、個人がそれぞれ自分で完結し、他人への干渉を必要最低限にすれば、秩序は守られるし束縛なんて必要ないのさ。無駄な欲を捨て、自然の流れに身を任せ、必要最低限のものだけで生きていく。そうすれば必要以上に富を貪ることも自由を奪い合うこともない。人間も自然界の動物のひとつだってこと、忘れちゃいけない」
「……
「だから、この奇能を使ってあーしが自由の新世界を創る。あーしに共鳴してくれる人だけで構成される新世界を創世するんだ」
「へぇ、ずいぶん大きな話になってきたね。新世界を創る野望はいいけど、仲間はできそうなのか?」
「あーしには多くのリスナーが共感してくれてるよ。それにもう一人、あーしと同じく奇能を持った人が協力者になってくれる予定なんだ。その人も悪魔の先導者なのに裏切るそうだから、あーしと似たような境遇さ」
智奈が主張を語り終えると、廻は何度か無言で頷いた。
彼は暫く思い詰めたような表情を見せていたが、
「よし決めた!」
と、突如大きな声で言った。
「何を決めたんだい?」
「俺も天帝を裏切る。そして、智奈の新世界創世に協力するぜ」
そう言って廻は白のコートを着た。
「……本当かい? ありがとう」
「これで奇能持ちが三人。結構やれるんじゃね? じゃあ、これから協力するにも智奈がどこにいるのかいちいち探すの面倒だから、新しい連絡先教えてくれよ。それとまた今度、その協力者とやらを紹介してくれよな」
「うん、わかった」
「さあ、俺と智奈の新世界創世に向けた第一歩だ!」
智奈の連絡先を登録し、テントの外へ出た廻は、腕を高く伸ばした。
今朝は快晴だった。
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