第6話.流浪の再会①

 夢城真樹ゆめしろまきは、黒川くろかわ毒水ぶすみず兄妹の騒動でも結局は終末が起きなかったので、人間を知る為に再度働こうと、散歩がてらバイト先を探しに街中を歩いていた。


 前回働いたコンビニは一週間も持たずに解雇されたので、今回はコンビニは選択肢から外すことにした。


 店先にある張り紙に目を止めながらダラダラ歩く。


 しかしコンビニ以外、特に目ぼしいバイト募集の張り紙がない。


 退屈さから真樹があくびをひとつしたとき、彼女の耳に歌声が漂ってきた。


 どこかで聞き覚えのある声。


 その歌声のする方へと足を向ける。


「聴いてくださり、ありがとうございましたっ!!」


 広場のようなところでピンクのドレス風の服を着た一人の女が、二、三人の観客に向けて、ツインテールの頭を深く下げていた。


 あれは、神側の先導者、砌百瀬みぎりももせだ。


 路上公演も終わったようなので、退屈さを紛らわせる為に相手をしてやろうと真樹は近づく。


「やあやあ」


 まずは笑顔でフレンドリーに声をかけた。


 後片付けをしている百瀬は真樹を一瞥すると、「また出た……」とため息をついた。


「胸は出てるけどまたは出てないわよ?」


 真樹は自分の下半身を気にする。


「いや、そっちの『また』じゃないから」


 百瀬は呆れたように言った。


「それにしてもあいかわらず元気に頑張ってるようじゃないの」


 真樹は努めて笑顔で話しかける。


「アンタ、いつもなにフラフラ街中漂ってんの? 暇なの?」


 百瀬がジトっとした目つきで言う。


「人をプランクトンみたいに……。フラフラしてるようで実はちゃんと目的を持って動いてるのよ。実はあたしはバイトを探しているのよ!」


 真樹は胸を張る。


「へぇ、バイトね。暇なアンタはいいわね。わたしだって生活苦しいからもっとバイトやりたいけど、バイトすると時間取られてアイドル活動に支障がでるし」


 百瀬はため息をついた。


「まあ、猫飼いのジレンマね」


「なに、それ?」


「愛する猫ちゃんの寿命は短い。だからなるべく一緒にいてあげたい。でも働いて稼がなくちゃ猫ちゃんの世話ができない。でも働きに行くと猫ちゃんと一緒にいる時間が減ってしまう、という悲しい定めのループ……」


「それがどうしたって言うのよっ! まったく」


 百瀬は苦々しそうな表情を見せた。


「それにしてもあなたも悩んでたのね。好きなことをやって楽しい毎日を過ごしてるのかと思ってたわ」


「アイドル活動は好きだよ。でももう人気は落ちたんだからさ、未だにアイドルなんてやりたいことばかりしてないで、ちゃんと現実を見て他の仕事探したほうがいいのかなぁ……って思ったりもして。それに人の目も気になるしね。ってなわけで、わたしもけっこう悩んでるのよ」


 百瀬の表情が少し暗くなる。


「まあまあ、そう落ち込まなくても。お金がなくても好きなことをやって生きる人生も選択肢の一つよ」


「そう?」


「やりたいことの反対は?」


 真樹が百瀬に訊く。


「やりたいことの反対?……やりたくないこと」


「お金持ちの反対は?」


「貧乏」


「つまりこの場合、四つのパターンが考えられるでしょ。やりたいことをやってお金持ち、やりたいことをやって貧乏、やりたくないことをやってお金持ち、やりたくないことをやって貧乏」


「それが、何よ?」


「やりたいことをやってお金持ちってパターンは、運も大事でそうそうできるものじゃないわ。ほんの一握りの選ばれた人だけ。逆に一番避けたいのが、やりたくないことをやって貧乏。これは辛いわ」


「まぁそうね」


「だとしたら残る選択肢は、やりたいことをやって貧乏か、やりたくないことをやってお金持ちか。この二つは人それぞれの価値観で、お金に重きを置くか、好きなことに重きを置くかで、自分の好きな方を選べば良いのよ。だから周りの目なんか気にせず、貧乏でもアイドル活動ができることに幸せを感じれば、それはそれで人生充実してて良いじゃない!」


 真樹はそう言って、笑顔で百瀬の肩を優しくポンポンと叩く。


「アンタ、私を慰めてくれてんの? 悪魔のくせに優しいとこあんのね。まあ、ちょっとは気が楽になったわ。ありがとう」


「あたしは一応、人生相談所の相談員よ。理に則って丁寧にお悩み解決がモットー」


 真樹はサムズアップで応える。


「あ〜、それじゃあその相談員さんに、もう一つお願いがあるんだけど?」


 百瀬は真樹に言った。

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