第7話.流浪の再会②

 夢城真樹ゆめしろまき砌百瀬みぎりももせの依頼に対し「遠慮なく言って! ちからになるわよ」と胸を叩いた。


「あのさ、わたしが作詞した新曲ができたんだけどさ、なんか曲に合うコールを考えて欲しいのよ。ファンの人との一体感が大事だからね」


「まあ、あれってファンの中の有志が作るんじゃないの?」


 真樹が訊く。


「嫌み? いまのわたしにそんなにもファンがいないことわかってるくせに」


 百瀬は真樹をジロリと睨んだ。


「そーいうことなら任せといて! こう見えても『合いの手のおまき』と呼ばれて、ライブ会場ではオタクから恐れられたものよ。実はアイドルのコールの半分以上はあたしが考えたんだから」


 真樹は胸を張る。


「また嘘ばっかり」


「あたしクラスになると即興で作れるわよ」


「ほんとぉ? じゃ、一度やってみてよ。歌ってみるから。タイトルは『女の子は「好き」が好きっ!』よ」


「まあ、ダサいタイトル」


「なんか言った?」


「いえ、なんでもないわ」


 百瀬は呼吸を整えると、アカペラで歌い出した。


「君の指先と〜♪」


 その歌声に合わせ、真樹が即興でコールを入れる。


「あっ、びばのんのん♪」


「わたしの指先が♪」


「あっ、びばびばびば♪」


「触れた瞬間に〜♪」


「あっ、びばのんのん♪」


「二人は弾けるの〜♪」


「あぁ〜、びばのんのん♪」


 百瀬は歌声を止めた。


「ちょっと!」


「なにか?」


「なにかじゃないよ。コール、曲に合ってなくない?」


「そうかしら?」


「聞いてると、なんかコールから加齢臭がするんだけど」


「なんだと、このガキ」


「……はぁ、やっぱりアンタに頼んだわたしがバカだったわ」


 百瀬はため息を吐いた。


「だいたいコールって考えるの難しいわよ」


「『合いの手のおまき』はどこ行ったのよっ! まったく。ま、いいわ。本当にお願いしたかったことはこっちなのよ」


 そう言ってスマホを取り出し、とある動画を再生する。


「そのワォチューブなんだけど、ちょっと見てみてよ」


 真樹にスマホを手渡した。


「ははは、このコメント面白いわね」


「動画の方を見なさいよっ!」


 百瀬が怒る。


「これがなにか? あら、見た顔ね」


 動画には天象舞てんしょうまいが映っていた。


「それ、アンタんとこの先導者でしょ。そしてその両脇にいるのがうちの先導者。変なことにわたしの仲間、巻き込まないで欲しいんだけど」


 動画内の舞は、愛について熱く語っていた。


「まあ、舞ちゃん、頭までピンクに染めて。あたしの知らない間にこんな勝手なこと始めてたのね。このこと、あのヤキソバ頭……、聖音きよねは知ってるの?」


「うーん、多分まだ知らないと思うけど……。わたしから伝えようとは思ってるんだけど」


「ふぅん、なるほどね。この件、あたしからも本人に聞いてみるわ。それじゃ、あたしは再びバイト探しの旅に出るので」


 そう言って真樹はスマホを百瀬に返し、彼女の元から離れようとした。


「あ、ちょっと待って」


 百瀬が真樹を呼び止める。


「あら、なぁに?」


「この先の通りにさ、新しいコンカフェができたんだけど、そこでバイト募集してたよ。わたしも働いてみようかなって惹かれたんだけど、よかったらやってみたら?」

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