第4話.自由の男と憤慨の女①
皇の仕事ぶりは極めて優秀で、同じ時間内で他人の倍はこなすほどであった。
皆が忙しく動き回る中、今日も倉庫内に昼休みを告げるベルが鳴る。
(ヨッシ、休憩っと!)
皇は腕を伸ばし、体をほぐした。
倉庫内の空気も脱力していくようだ。
皇は外の休憩所の自動販売機で缶コーヒーを買い、ベンチで一人寛ぐことにした。
缶コーヒーのプルタブを上げる。
手にした缶を口元まで運び一口飲んだ時、目の端に、皇と共にここでバイトしている女子大生がこちらへ近づいてくるのが見えた。
「あ、あの、ちょっと作り過ぎちゃったんですけど、よかったら食べますか?」
彼女は少し照れながら、皇にサンドウィッチを差し出してきた。
「あ、マジで!? サンキュー!」
皇が笑顔で受け取ると、女子大生ははにかみながら、その場を足早に去っていた。
労せずサンドウィッチを手に入れた皇は、早速それを口に放り込む。
「モテるねぇ、皇くん」
今度は同じくここで働く主婦が、彼に声をかけてきた。
「おお、お疲れ様っす」
主婦も缶コーヒーを買い、皇の隣へ座る。
「サンドウィッチ作ってきてくれるなんて、可愛いじゃん」
「作り過ぎたらしいですよ」
「そんなわけないって。最初から皇くんにあげるつもりで作ってきてんのよ」
主婦は肘で皇を小突く。
「へぇ、そうなんですか。ありがたいけど、でも嬉しさ半分、困り半分ってとこかな」
皇は笑いながら言った。
「誰か好きな人、いるの?」
「ええ、まあ」
主婦はクスッと笑う。
「それにしてもさー、皇くんは何でバイトなんかしてるの? 仕事はできるし、人当たりもいいし、爽やかだし、さっさとどこかで正社員になればいいのに」
主婦が訊いた。
「いやぁ、なるべく縛られない自由な生き方がしたいんですよ。金は失くしても稼いで取り返せるけど、人生の時間は取り返せないんで。会社に縛られちゃ人生が不自由でしょ? だから身軽なポジションで好きなことやって生きてやろうってね」
「でも、世間の目ってあるじゃん?」
「そうっすか? よく言われるけど俺の感じじゃ、みんな自分のことで精一杯で他人のことなんかいちいち気にしてないみたいですよ。それにどう見られようとも、生き方は俺の自由だし、まぁ、気にしないです」
二つ目のサンドウィッチを詰めた口を動かしながら、皇は答えた。
主婦は感心したように頷く。
「へぇ、皇くんってなんか腹が据わってるねぇ。若いのに悟ってるとか? 私も皇くんみたいに自分をしっかり持ってたらなぁ。流されて結婚して失敗だったかも……、なんて思ったりして」
主婦はため息をついた後、苦笑いをした。
「それじゃ、私もお手洗い行って、お昼ご飯食べてくる。じゃね」
そう言って、皇に小さく手を振ると彼女は笑顔で去っていった。
皇は最後のサンドウィッチを口に放り込む。
そんな彼に近づく三度目の人影。
「関係者以外は立ち入り禁止だよ」
皇はその人影に言った。
「久しぶりね、元気してた?」
艶っぽい女の声が返ってきた。
「アンタが来たってことはオレの出番かい?
皇の視線の先に、赤いタイトスカートを穿いた長い黒髪の女が、凛とした佇まいで立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます