第3話.愛の粛清
「寒いですね」
純真が呟く。
「わかりますが、ここでわたし達が見逃せば、あの差別主義者が世に
舞が優しい口調で純真を諭した。
「あっ、やってまいりました。マザー舞」
小咲芽が知らせる。
「それではこの場は任せます。シスター小咲芽」
「はい」
小咲芽は舞に返事をすると、般若の面を装着した。
こちらへ向かってくる四人組の中の男の一人は飲み過ぎたのか、途中で電柱の陰で嘔吐していた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「おいおい、飲む量考えろよ」
「お水、どこか売ってない?」
騒ぐ四人に小咲芽はゆっくりと近づく。
「キャーッ!!」
小咲芽に気づいた女が叫んだ。
全員が小咲芽の方を見る。
「うおっ、オ、オバケ!?」
夜の闇の中、街灯の灯りに照らされる般若の面を被った白い着物の少女は、誰であろうと不気味に映るであろう。
だが、小咲芽の方は落ち着き払い、彼らに立ちはだかった。
「だ、誰だ、お前!?」
男の一人が叫ぶ。
「
小咲芽は四人に向けて両手の手のひらを広げた。
影が見えない夜の道、小咲芽の奇能である双頭の影の蛇が、その闇の中を二匹に裂けながら泳いでゆく。
「な、なに? わたしの足になんかいるんだけど!?」
小咲芽の影の蛇が足元に巻きつき始め、女の一人はパニックになっていた。
「お、俺にもなにか巻きついて……!?」
もう一人の男にも巻きついてゆく。
酔って動きの鈍い二人を、影の蛇が異次元へと誘う。
巻きつかれた二人は、暗い地面に吸い込まれるように消えていった。
「キャーッ!」
残った女が悲鳴を上げた。
嘔吐の男と叫んだ女は逃げようとするも、足がもつれて夜道に倒れた。
それでも必死に這って逃げる二人。
だがそんな二人も、あっけなく影の蛇の餌食となった。
四人とも姿が消え、夜の道に静けさが蘇る。
「嫌な役目を引き受けてくださり、ありがとうございます。シスター小咲芽」
舞は小咲芽に礼を言った。
「いえいえ、愛の世界の為なら、このちから、喜んで使わせていただきます。マザー舞」
小咲芽は頭を下げた。
「しかし、なぜシスター小咲芽に粛清の指示をお出しになられたのです? マザー舞。奇能は独裁者のちから。全ての人に平等に愛を配らなくてはならないとの教えから奇能は使わないはず。これでは矛盾してしまうのでは?」
純真が尋ねる。
「では、こう考えてみてはいかがでしょう、ブラザー純真。差別をするような愛のない人間は、そもそも人間ではないと。よって奇能を使っても教えに背かず、矛盾も起こらない。これは弱者を守るための愛の粛清です」
舞がおっとりとした声で言う。
「なるほど! 相手が人でないなら奇能を使っても問題はない。これなら筋が通りますね。さすがはマザー舞」
純真が舞を讃える。
「わたくしも納得致しました。マザー舞」
小咲芽が微笑んだ。
「わたしは神や悪魔とは違い、理に偏るわけでなく、情に偏るわけでもありません。両方の良いところを取り入れて、このちからを理想実現のために活かします」
舞が手のひらを上に向け、純真と小咲芽に差し出した。
「全ては愛の新世界のために」
「全ては愛の新世界のために」
「全ては愛の新世界のために」
純真と小咲芽が、舞の手のひらに自分の手のひらを重ね合わせる。
三人は一層、心を通わせた。
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