第2話.仲間思いの男②(荒砥翔也)
特に酒に酔った客、いわゆるルーピーは脳がアルコールでやられてるせいか、良い悪いの判断がつかないバカだ。
その日は女二人に男一人というグループと、男女二人づつペアのグループが客で来店していた。
女二人に男一人のグループはおとなしい連中で特に問題はなかった。
ただ一人の女は髪の毛がピンク色で、男は見た目からして気の弱そうな奴。
もう一人の女は高校生くらいで白い着物を着ているという、変わった組み合わせのグループだった。
この三人は私語もなく静かに寿司を食べている。
問題なのはもう一つの連中。
ちょっと金を持ったイキったリーマン二人と頭悪そうな女二人との組み合わせ。
その中の男の一人がダニエルに向かって「板さん、黒人さんなのに手のひら黒くないんだね。さてはシャリを握ってるうちに色が落ちちゃったな」なんて笑いながら言った。
すると女の方が「ウケる!」と言って、手を叩く。
四人は一同で爆笑した。
四つの赤ら顔が揺れる。
こいつらはこれが悪気のない面白いジョークだと思っているらしい。
ダニエルの気持ちを思った俺は、当然頭にきて、さあ首根っこをつかまえて、四人とも店の外へ放り出してやろうかと俎板を左手の拳骨でドンと叩いた。
すると、俺の隣にいた親方がカウンターの下で俺の腹に手を強く当てて、昂ぶる俺の動きを制止した。
俺の体は反射的に親方に従い、動きを止める。
怒りを堪えてダニエルの方を見た。
「どうぞ、ごゆっくり」
ダニエルは一言そう言うと、客に見せるいつもの微笑みで返し、変わらず仕事を続けた。
閉店後、その一件に納得のいかない俺は、事務室にいた親方に訊いた。
「なんであのとき俺を止めたんですか?」
俺は親方に対して少し怒りを滲ませる。
「まあ、まずはダニエルに任せとけ。俺らが勝手に怒ってもしょうがねぇだろうが」
親方はお茶を啜りながら呑気に言う。
「ダニエルはきっと辛いのを堪えてたんですよ。だから俺が代わりにあいつらを店からつまみだしてやろうと思ったんです」
「まあ、本人があの場は丸くおさめたんだからそれでいいんじゃねぇか。そんなことより、ダニエルに片付け押しつけてないで、お前も手伝ってこい」
そう言われた俺は、しぶしぶカウンターへと戻った。
親方には一人娘がいる。
名前を
母親を既に亡くしているので、父である親方が経営しているこの店を助けるためだ。
ダニエルはその佳奈さんと楽しそうに話しながら、二人で片付けをしていた。
「ダニエル、ちょっと話がある」
俺はダニエルを呼んだ。
佳奈さんは俺とダニエルを見て不安そうな顔をしている。
俺とダニエルは店の外へ行くことにした。
誰もいない店前で、俺はダニエルに訊いてみた。
「ダニエル、お前、客にあんなこと言われて悔しくないのか?」
ダニエルは俺の質問に答える。
「もちろん悔しいです。でもいまは寿司の修業が大事。恩人の親方の店でお客さんとケンカはできません」
「俺はダニエルが故郷を離れて頑張ってるのを知ってるから、ああいう連中が許せないんだよ」
俺は普段から思っている気持ちを彼に伝える。
「
ダニエルはそう言って、いつもの微笑みを見せた。
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