Ⅲ.暴虐の正義編

第1話.仲間思いの男①(荒砥翔也)

 ガボンの寿司を食べてみたいな、と思った。


 ただ、俺はガボンという国を全く知らない。


 世界地図を広げられて、ガボンを指させと言われても、俺はできない。


 ただアフリカにある国だとダニエルは言っていた。


 ダニエルは俺の隣で真剣な眼差しで、器用に包丁を操り、真鯛をさばいている。


 この年齢まで外国人とこんなにも近くで接する事なんてなかった。


 ダニエルは大学生のときに留学生として日本に来て、日本食の魅力、特に寿司に魅せられたそうだ。


 ガボンでは生魚は食べないらしい。


 だから日本に来て生魚を乗せて食べる寿司にはガチで驚いたそうだ。


 でも寿司に挑戦して食べてみたら、すっかり魅了されてしまい、自分でも作ってみたくなったとのこと。


 その目標を果たすため、大学卒業後に再来日して、今度は寿司の専門学校に入学した。


 夢はいつか故郷のガボンの人たちにも寿司を食べさせてあげること。


「チキンを乗せて握ったら、ガボンの人にも食べてもらえそうです」


 そう、笑顔で俺にアイデアを話していた。


 そんなダニエルが「千浦ちうら」の親方の元へ修行に来て半年。


 以前から寿司の勉強をしてたとはいえ、覚えるのが早い。


 しかもダニエルは日本語もマジで上手い。


 頭は相当いいんだと思う。


 真面目で勤勉だ。


 俺も負けてられない。


「千浦」の親方も変わった人で、還暦を超えてるのに新しいことが好きで、アイドル番組を楽しみにしていたり、ワォチューブを観たりして楽しんでいる人。


 だから黒人のダニエルが日本人の友人と「千浦」へ食べに来た時に、親方の寿司に感動したダニエルが、ぜひ親方のところで修行したいって言ったら、それはもう喜んで、外国人が寿司を握るなんて面白い、うちも国際化だ、暖簾分け一号店はアフリカにするか、なんてことを言っていた。


 ほとんどその場のノリで「じゃあうちで働くか」ってなって、ダニエルも喜んで「お願いします」と言い、秒で雇うことが決まった。


 俺にできた初めての後輩。一応、俺が兄弟子でダニエルが弟弟子になるのか。


 夢を叶える為に実際に行動を起こす勇気。


 自分から未知のものにチャレンジする勇気。


 同い年だからこそリスペクトできる。俺もダニエルの夢を応援する決意だ。


 なので、ダニエルがバカにされたときは強い憤りを感じた。


 やっぱり黒人が寿司屋のカウンター内にいる姿は珍しいのか、店に来た客に声をかけられることはしょっちゅうある。


 もちろん好意的に応援してくれる客が多いが、残念ながら、そんな人達ばかりじゃない。





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