第53話.愛の動画

 緑門莉沙りょくもんりさ天象舞てんしょうまいにSNSでメッセージを送ることにした。


 コンビニの店員、真壁まかべに告白されて、自分にもボーイフレンドが出来そうだったが、結局うまくいかなかったことを綴り、舞へ送った。


 舞と以前、不穏な関係となったが、やはり莉沙は他人との関係悪化することが嫌だった。


 幼い頃に仲間はずれにされた記憶が、いくら強がっていたとしても心の傷としてうずくようだ。


 ダラQが突如、配信を更新しなくなり、世の中も再び落ち着きを取り戻していた。


 自分の不遇を叫び、暴れ回る人間も消えた。


 何か出来事が起きては消えるを繰り返しながら時間が流れていく、それが人生なのかもしれない、そんなことを莉沙はふっと思った。


 舞から返事が届く。


《そうですか、それは残念ですね。その人と恋人になって、りささんにも愛の素晴らしさを知ってほしかったです》


 そう文字が記されていた。


《でも変なワォチューバーにハマってる人だったから。他人に依存する人って自分に自信がないようなイメージ。わたしには無理だよ》


 自室のベッドに寝転がって、素直な気持ちをスマホの画面に打ち込む。


《他人に依存して何が悪いんですか? りささんみたいな人がいるから辛くても声を上げられない人が生まれるんですよ。人に対して愛が足りないですね。もっと優しい気持ちを持ってください》


 今度は舞から諭されるメッセージが届いた。


 莉沙は想定外の返事に少し戸惑う。


《ゴメン……》


 反射的に謝罪の言葉を打ち込み、送り返した。


《わかってくれたなら良いですよ。わたしは許せる人間ですから。これからも一緒に愛を増やしていきましょうね》


 舞から返事が戻ってくる。


 どうやらまだ自分には優しさが足りず、意地悪い性格なのかもしれない、莉沙はそう思った。


 中学生の時、自分を仲間はずれにしたクラスメイトを思い出し、その嫌いだった連中と実は自分も同じ性格なのかもしれないと思うと、気持ちが沈んだ。


(舞は優しい性格だから、色々と気づいて愛とか言い出したのかも……)


 少し懐疑的だった舞に対して協力した方がいいのかも、とも思った。


 今回はもう舞とのやりとりを止めることにした。


(それにしても流行りのワォチューバーの配信って、そんなにみんなハマるものなの?)


 今まで興味がなかったせいで、どういうものか全然知らないので、悄気しょげた気持ちを紛らわせようとスマホを操作し、それらの配信を観てみることにした。


 検索すると、ダウナー系ワォチューバーという人達が続々と出てくる。


(これだけいるのは、それだけ社会に病んでいる人が多いのかな……)


 だがそれだけではなく、関連するものの中にアッパー系ワォチューバーと名乗る者もいた。


 その中の一つに目が止まる。


 聖母舞チャンネル「愛の世界へようこそ」というタイトルの動画。


(これって……!?)


 莉沙は微かに震える指で動画を再生した。


 ◇

 わたしを信じてこの配信を観てくれている人たちへ。


 ストレスの多い社会で、毎日辛い思いをされていることでしょう。


 あなたたちが苦しみ喘いでいるのは、決してあなたたちの努力不足や自己責任なんかじゃないんです。


 苦しみの原因、それはこの社会の愛の不足なんです。


 でも人生に絶望しないでください。


 こんな社会を終わらせる方法があるんです。


 それはわたしたちと一緒に愛の世界を創ること。


 わたしたちはいまその同志を募っています。


 実はわたしたちは仮想空間に愛の世界を創設する計画を立てています。


 そこはリアルの世界とは全く違う、あらゆる多様性が認められるユートピア。


 それこそが本当の新世界です。


 さあ、いまの辛い現実を捨て、わたしたちに協力してもらえませんか?


 愛のない人たちが跋扈する、この腐った現実の社会を壊して、新しい世界でわたしたちと生きましょう。


 ◇


 そう熱く語るスマホの画面に映る人物は、髪の色をピンクに染めているものの、間違いなく舞だった。


 彼女の両脇には男性と、そして南善寺小咲芽なんぜんじこさめがいた。


(もしかして……、舞もダラQと同じことをしてる……!?)


 街中で真壁を引っ叩いたあの時の嫌な感覚が、何故か莉沙の中に蘇ってきた。


 〜天帝の雪辱編・完〜

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