第44話.邸宅内の戦い①

 夢城真樹ゆめしろまきが変化したリリスを見て、毒水紗羽ぶすみずさわ憲慈けんじの兄妹は驚きから、口を開け目を見開いていた。


 小刻みに震えてもいるようだ。


「ええい! オレ達の邪魔をするな!」


 憲慈が恐怖を打ち払うように叫ぶ。


 その叫び声を合図に、応接間の床からどす黒い腕が無数に現れた。


 その腕はぐいぐい伸びて、リリスを粛清しようと足を掴んでくる。


「小賢しい!」


 リリスは鋭角で硬い自身の腕を手刀にし、まとわりつく黒い腕を薙ぎ払っていった。


 それでもリリスを異次元の彼方へ引き摺りこもうと、次から次へと幾本もの黒い腕が床から生え、襲い掛かる。


 応接間の床に積み上がる刈り取られた腕。


「ハッ!」


 流石に、このままでは際限がないと思ったリリスは、両手を広げ高速で回転すると、竹とんぼのように宙を舞った。


「逃すか!」


 響く憲慈の大声。


 黒い腕はさらに伸びて、浮いているリリスを追いかける。


 室内が無数の伸びた腕で満たされてゆく。


 このままではいずれ拘束されると察したリリスは、高い天井に吊るされているシャンデリアを切り離した。


 そのシャンデリアを今度は、背中合わせで互いの身体を密着させている紗羽と憲慈に向けて、力強く投げつけた。


 兄妹の奇能きのうであるカルネアデスの板が、二人を守るように阻む。


 奇能のその板はガラスの破片に塗れた。


 リリスは、兄妹の視界を遮っているその板に目掛け突進すると、強烈な蹴りを叩き込んだ。


「きゃあ!」


 紗羽が悲鳴を上げる。


 リリスが蹴った板が紗羽と憲慈に打ちつけられた。


 互いに密着していた兄妹は、勢い余って板ごと応接間のドアを突き破り、室外へと吹っ飛んだ。


 応接間内で蠢いている黒い腕の動きが止まる。


 リリスも室外へと、二人を追いかけた。


 紗羽達兄妹は慌てて立ち上がり、リリスから逃げようと、狭い廊下から広いエントラスホールへと向かった。


 だが緊張からか、ホールまで来た時、紗羽の足がもつれて彼女は転んでしまった。


「紗羽!」


 憲慈が手を差し伸べる。


 その隙にリリスは二人を追い詰めた。


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