第43話.悪魔の回答④

 応接間に緊張感が充満する。


 贄村囚にえむらしゅうを睨む毒水紗羽ぶすみずさわ憲慈けんじの兄妹。


「オレはこんな社会にうんざりだ!」

「わたしもこんな世界にうんざりなの!」


「オレを救え!」

「わたしを救って!」


「カルネアデスの板!!」


 兄妹が同時に声を合わせてそう唱えると、二人の背後から巨大な木製の板が現れた。


 兄妹の背丈よりも高く古色蒼然とした木板。


 その板には抱き合う男女の絵が彫られていた。


「これが貴様達の奇能きのうか……」


 贄村が呟く。


 板はゆっくりと回転し、裏側には人の黒い手形が無数に付いていた。


「これでお前達を粛清してやる!」


 憲慈が叫んだ。


「悪魔の二人を始末しろ。私がお前達兄妹を拾い、この屋敷に住まわせ、奇能まで与えたのだ。その恩に報いるがいい」


 執事の黒川くろかわは毒水兄妹にそう告げると、自身は落ち着き払った様子で悠々と部屋から出ていった。


「真樹、この場は任せたぞ。私は黒川を追う」


 贄村は夢城真樹ゆめしろまきに伝える。


「任せといて」


 真樹は了承し不敵に笑うと、毒水兄妹の奇能と向かい合った。


 贄村はその隙に、はめ殺し窓に体当たりした。


 ガラスが荒々しく割れる甲高い音が響く。


 そのまま屋敷の外へ出て、黒川の姿を探しに向かった。


 ◇


 贄村が去った後、砕けたガラスが散乱する応接間で毒水兄妹と対峙する真樹。


 紗羽と憲慈は、室内の締め上げるような緊張感から、興奮しているようだ。


「一人でわたし達の相手をするつもり!?」


 紗羽がヒステリックな声で真樹に言った。


「ふん、あたしをナメるんじゃないわよ」


 真樹は紗羽にそう返すと、目を閉じて胸に手を当てる。


 それを合図に、真樹の身体が周囲の光を吸収し、漆黒の影となった。


 そしてその影は刹那で一転、強い光を放つ。


 やがて光が収まると、そこには体の右半身が赤く煌めくルビー、左半身は黒くブラックダイヤモンドを思わせる、硬い鉱物でできた人形ひとがたの怪物が現れた。


 頭部はブリリアントカットされたダイヤモンドのよう。


 真樹が姿を変えた異形の悪魔。


わらわの名はリリス。人の子よ、たとえ不幸な境遇の者とて、妾に刃向かうならば容赦はせん」



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