第41話.悪魔の回答②

「それは、弟を家へ一生閉じ込めておけと言うことでしょうか?」


 毒水紗羽ぶすみずさわが声を震わせながら贄村囚にえむらしゅうに訊く。


「そうです」


 贄村は紗羽へ視線を外さず答えた。


「それでは弟の自由や生活を犠牲にしてしまいます。わたしの大切な弟にそんな辛い思いをされるわけには……」


「あなた方の家族愛より、世界の秩序を優先します」


「そんな……、せっかく贄村様ならよい解決策を見つけてくださると思ったのに……」


 紗羽は怒りとも悲しみともとれる声で言う。


「残念ながら、全てが望み通りとはいきません。何かを得るには何かが犠牲になる。世界はトレードオフの関係で成り立っています。貴方の弟一人の幸福と、この世界の安定を比べるなら、私は世界を守ることを優先します」


 贄村は淡々と答えた。


「そんな……。贄村様もわたし達を救ってはくれないなんて。やっぱり贄村様は悪魔ですね」


「ほう、どうして我々が悪魔だとご存じで?」


 紗羽の表情が一瞬固まる。


「そ、それは、あの……」


 紗羽が戸惑っていると、部屋のドアが開く音がした。


「これでわかっただろう。誰も不幸なお前達を救ってはくれない。出生で恵まれた者だけが良い思いをするこの世界が、いかに不平等で出来の悪い世界か」


 そこに立っていたのは執事の黒川くろかわだった。


「黒川……」


 贄村が呟く。


「さあ、終末を起こし、この世界を終わらせてやろうではないか。まずは終末の邪魔をする贄村達を始末しろ」


 黒川の指示に紗羽は小さく頷いた。


 すると、黒川の後ろから、今度は毒水憲慈ぶすみずけんじが室内へと入ってきた。


 憲慈は鋭い目つきで贄村を睨んでいる。


 紗羽も同じく潤んだ瞳で贄村を睨んでいた。


「神も悪魔も救ってはくれない。わたし達はこれで諦めがつきました。終末を起こし、この世界をリセットして、新世界で幸せを掴みます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る