第38話.再発の終末論②

 緑門莉沙りょくもんりさは、奇能きのうと言う言葉を真壁晋一まかべしんいちの口から出たことに驚き、彼を凝視する。


 終末は自分達が止めた為にもう起こることはないものだと思っていたが、自分の知らないところで誰かが終末を仕掛け、そしてまだ起こる可能性があるようだ。


 莉沙は当惑した。


「あれ、莉沙も奇能は知ってるんだ?」


 真壁はいつもの引き攣った笑顔を見せる。


「わたしを粛清するつもり……?」


 莉沙は戦闘と逃避、どちらの体制もとれるよう身構えた。


 街中なので人の目はあるが、いざとなれば自らの奇能、ストローマンを発動しようと、真壁の動きを注視する。


「どこで奇能を知ったのさ? まあ、いいや。まだ奇能はもらってないけど、新世界を創世する為にその力を活かせと、ダラQ様のオンラインサロンの加入者の中でも特に選ばれた者だけに奇能が与えられるんだ。それで俺は選ばれた人間ってわけ。もう与えられる奇能も決まってるしね」


 そう言って、真壁はスマートフォンを取り出すと腕を突き出し、莉沙に画面を見せつけてきた。


「どうだい? Tyrant Cloth《タイラント クロス》……、つまり暴君の十字架……、これがダラQ様より送られてきた俺に与えられる奇能の名前さ」


 スマホの画面には赤い文字でそう記されている。


 それを見た莉沙は、得意げな顔の真壁に冷めた目で言った。


「……ごめんだけど、クロスのスペル、間違えてるよ、それ」


「えっ?」


 一瞬で真壁の顔に動揺が走る。


「十字架のクロスじゃないんだけど。それじゃ暴君の布だよ。そのダラQって人、音が一緒だから間違えたみたいね」


 真壁の顔がみるみる赤くなった。


「うるさい! ダラQ様を悪く言うな! オマエみたいなちょっとした間違いも許さない揚げ足取りする奴がいるから、こんな酷い社会になったんだ! オマエみたいな人間が真っ先に粛清されるんだぞ! それが嫌なら俺の言うことに従えよ! だいたい女子大生なんて男と遊びまくってんだから、ヤッた人数が一人ぐらい増えても平気だろ!」


 むきなった真壁が口にしたその最後の一言が、莉沙の怒りを一気に炎上させた。


 真壁みたいな男は世の中から消えた方がいい、そう思った莉沙は奇能を発動しようと彼の間近まで歩み寄る。


「な、なんだよ!」


 真壁は接近してきた莉沙に怯んでいた。


 莉沙は彼と目を合わせ睨みつける。


 次の瞬間、「パン!」と風船が破裂したような大きな音が響いた。


 莉沙は真壁の頬を引っ叩いた。


 周囲の人の視線が莉沙と真壁に集まる。


 真壁は驚いた表情のまま、固まった。


「……さよなら」


 莉沙は乾いた挨拶を真壁に贈る。


 背を向けて去る莉沙に、真壁は後ろで何やらわめいていた。


 だが、莉沙の耳には届かない。


(奇能は使わないって約束だったね、舞……)

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