第37話.再発の終末論①

 緑門莉沙りょくもんりさは今日、再び真壁晋一まかべしんいちとデートをすることになった。


 と言っても、目的は彼と過ごす時間を楽しむことではなく、SNSのメッセージで真壁が言っていた話したいこととは何なのか、それを聞くのが目的である。


 恐らくは取るに足らないことかもしれない。


 そう推測するも、それでも知りたい気持ちが勝ってしまった。


 莉沙は待ち合わせ場所へ向かおうと、街中を行く。


 道中、やたらと救急車や消防車、パトカーが行き交う姿やサイレンの音を耳にした。


 なんとなく通行人もざわつき、街の雰囲気は落ち着かない様子である。


 待ち合わせ場所に着くと、すでに真壁は来ていた。


「ごめん、待たせた?」


 莉沙が真壁に声をかける。


「いや、別に」


 今日の真壁はサングラスをかけていた。


 サングラスに指を当て、少し気取ったポーズを取っている。


「ところでどこ行く? とりあえずわたしは、あなたが言ってた話したいことっていうのを聞きたいんだけど?」


 莉沙は言った。


「なあ、莉沙」


 真壁が莉沙の名を呼ぶ。


「……呼び捨て?」


 莉沙は眉間に皺を寄せた。


「俺の、カノジョにならないか?」


「……それは断ったはずだけど? だから友達なら良いって」


 真壁の問いかけに、莉沙は少し苛立つ。


 真壁の言動が、まるで自分より立場が上であるような振る舞いに感じられたからである。


「なった方が良いぜ? 俺のカノジョになれば、終末に生き残れるようダラQ様に頼んであげるから」


 莉沙は訝しげに目を細めた。


「えっ、終末……? どういうこと?」


 何故、以前自分達が阻止した終末と言う単語を真壁が口にするのか、頭の中に疑問符が湧く。


「ダラQ様の導きの演説、聞いてないの? 莉沙は無知だなあ。仕方ない、俺が教えてあげるよ」


 真壁は咳払いをひとつした。


「いいかい、もうじき俺ら殺人遺伝子持ちが社会の中で暴れ回る。するとそれがトリガーとなって終末が起こるんだ。そうなると、莉沙達のような恵まれた連中は消えることになるんだよ。そして今度は不遇だった俺らみたいな人間だけ生き残り、新世界を創るんだ」


 真壁はまるで壇上でプレゼンテーションをするかのように、ジェスチャーを交えながら落ち着きなく話す。


「……それ、本気で言ってんの?」


 莉沙は冷めた視線を返した。


「莉沙、口の聞き方に気をつけろよ。オマエの生殺与奪権は俺の気持ち次第なんだよ」


 真壁は莉沙を指差す。


「……変な宗教にハマったみたいね。わたし、時間無駄にしたくないから。帰るよ」


 莉沙は真壁に背を向けた。


「良いのかい、俺、殺人遺伝子持ちだぜ? それにちょっと運動できるからって良い気になってるみたいけど、俺、ダラQ様から奇能っていう、人を粛清する特殊能力を与えられる約束になってるんだからな」


 莉沙は驚いて振り向いた。


「……あなた、奇能きのうを知ってるの?」

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