第36話.騒擾誘発の配信

 贄村囚にえむらしゅうが開設したサバト人生相談所。


 ここで手下である夢城真樹ゆめしろまきと、ある配信動画を観ていた。


 その動画とは、現在、一部の人間に影響力を持つ黒山羊のマスクを被った配信者ダラQのもの、即ち毒水憲慈ぶすみずけんじの配信である。


 配信の内容は自分のファンに呼びかける演説だった。


 ◇


 俺を信じ、この配信を観ているお前達。


 毎日、鬱屈した先の見えない毎日に辛い思いをしてることだろう。


 でも教えてやる。


 お前達が社会的に恵まれず苦しみ喘いでいるのは、決して努力不足や無能だからなんかじゃない。


 苦しみの原因、それは殺人遺伝子のせいなんだ。


 この遺伝子を持つ奴は、生まれつき暴力的な衝動に駆られたりして、どうしても周囲に馴染めない性質があるんだ。


 告白するが、実は俺もこの遺伝子持ちだ。


 俺も生まれてから学校や社会で孤立して、ずっと不遇の人生を送ってきた。


 はっきり言ってこんな人生にはもうウンザリだ。


 だけど、出生ガチャにハズレたお前達、心配するな。


 こんな世界を終わらせる方法がある。


 それは終末を起こすことだ!


 終末が起これば、学歴も金持ちも、老若男女関係なく、全てが平等に消える。


 つまり真の平等だ!


 以前も終末騒動があった。


 でもあれは偽物の終末騒動で不発だった。


 がっかりした者もいるだろう。


 だが、最近の研究で殺人遺伝子を持つ者こそが終末の鍵であり、新世界で生き残る者だと言うことが、わかったんだ。


 だから俺を信じてくれるお前ら、力を貸してくれ。みんなで終末を起こそうじゃないか!


 今からその方法を伝える。


 終末を起こす方法、それは超簡単だ。


 お前らが持って生まれた殺人遺伝子の衝動を解放して、社会的に恵まれてる連中を襲えばいい。


 人と人が対立し争うエネルギーが終末を起こすトリガーとなるのだ!


 中には心優しく、他人を襲うことに躊躇する奴もいるだろう。


 しかし考えてみろ! 


 これは生まれつき定められたものだ。どうしようもないことなんだ。お前らが人を殺めても責任は無いし、罪などでも無い!


 そう考えれば、殺人遺伝子は無敵の才能、最強の力でもあるんだ。


 それに恵まれてる連中は、お前らと違い、今までさんざん良い思いをしてきた。


 お前らが不幸な目に遭わせてやっと平等だと思っていい。


 さあ、お前らのうちに眠る力を発揮しろ!


 生まれで人生が決まっちまうこんな世界、終わらそうじゃないか。


 殺人遺伝子を持たない恵まれた連中を襲え。


 そして終末を引き起こし、今の世界を平等に終わらせて、俺達だけで新世界を創るんだ!


 ◇


「殺人遺伝子なんて存在しないのに、こんな嘘言って大丈夫なのかしら?」


 配信を観ていた真樹が首を傾げる。


「自分を信じる者を動かすには、これだけで十分だからだ……」


 贄村は目を細めた。


「どーいうこと?」


「奴を妄信する者にとって、殺人遺伝子が現実に存在するかどうかの証明は必要ない。自分にとって都合の良いものを信じるか否か、だけだ。彼等の中では信じれば真、疑えば己の否定となる。つまり信じるしか選択肢はない」


「じゃあ、毒水家の人達が殺人遺伝子の話を作ったのは?」


「人同士を争わせ、終末を引き起こす為の方便……」


 贄村は配信を切った。


 パソコンをシャットダウンし、おもむろに椅子から腰を上げる。


「真樹、行くぞ」


「えっ、今から? 行くってどこへ?」


「毒水家だ。紗羽さわに依頼されていた件の回答がまだだからな」

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