第32話.黒い執事
「神と悪魔の両方に会ってみたわけだが、どうだったね?」
「どうって言われても……」
紗羽は俯いた。
「神は不平等な運命のお前達を救ってはくれそうか?」
黒川の質問に、紗羽は無言で首を振る。
「そうであろう。思いやりだなんだと相手を憐れんだところで、麻薬やアルコールのように一時的に楽になったとしても、お前たちの何も救ってはくれない。所詮、奴らは聞こえの良いことを言っては、自己満足に陥っているだけの連中よ」
紗羽は視線を床に落としたまま佇んでいた。
「では悪魔はお前たちを救ってはくれそうか?」
「
紗羽が呟くように言う。
「恐らく、理に則り世界の秩序を守る為だと手前勝手な理屈をつけては、無惨にお前達を切り捨てるであろう。わかったか? お前達を救ってくれる者はこの世界にはいないことを」
紗羽の目が潤み始めた。
「お前達兄妹はこの世界の被害者。もうこれ以上辛い思いをする必要はない。出自で人の運命が決まってしまうような、こんな不平等で出来損ないの世界は、皆が平等になるよう終わらせてやろうじゃないか。天帝もそれを望んでおられるのだ。だが、それをあの贄村囚や天園司が妨害をした。おい、
黒川が紗羽の兄、憲慈を呼ぶ。
憲慈が怒りの目つきで二人の前へ現れた。
「いよいよ終末を起こす時だ。お前に共感したこの世界に厭世している連中に、恵まれている者を襲うよう指示を出せ。贄村達を失望の底に落とし、天帝の雪辱を晴らすのだ。そして
黒川がメイドの方を向き、彼女を呼ぶ。
「はい」
「お前はインターネットのあちこちで憲慈のシンパを煽動しろ。天帝の創造物であり、本来は終末で消えるはずの悪魔のお前を、慈悲深い天帝は
「あ、はい。必ず……」
菊美は黒川に頭を下げる。
「それから掃除は手を抜くなよ。汚れた屋敷で終末を迎えることは天帝に対して失礼だ。どの部屋も平等に清掃し、常に美しさの均衡を保て」
黒川は菊美にそう伝えると、鼻歌を歌いながら自分の部屋へと戻っていった。
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