第27話.公園の夜②

 三人の男は一斉にちなふきんの身体を押さえにかかった。


「ふむ、なるほど。以前もこんな風にどこかの女の子を襲ったわけか」


 ちなふきんは落ち着いた声で男達に言う。


「痛い目に遭いたくないなら黙っとけ、な!?」


 野太い声の男は力強くちなふきんの手首を掴み、黒色のシャツをめくろうとした。


「黙って気持ちよくなりゃいいんだよ!」


 幼い声の男がちなふきんの右足を押さえつけながら言う。


 高い声の男は荒い息遣いで、左足を押さえようとしていた。


 その瞬間、ちなふきんは力一杯、高い声の男の腹部を蹴る。


「イテッ!」


 高い声の男が後方に吹っ飛び、尻餅をついた。


「しっかり押さえてろ!」


 野太い声の男が怒声を上げる。


「今まできみたちは未来を思わず、自由で幸せに生きてきたようだね。でもその旅ももう終わり。つまらない犯罪者に属したきみたちは、今宵で永遠になるのさ」


 ちなふきんはそう言うと、猫のような柔らかい身体をくねくねと動かして、押さえつける男達からすり抜けた。


「チッ! クソッ!」


 野太い声の男が苛立つ。


「さあ、旅人よ、おやすみなさい。プロクルステスの寝台ベッド


 ちなふきんはそう唱えると、吹き戻しを咥え、男達へ目掛けて吹いた。


 その吹き戻しの音を合図に、男達の背後から冷たい風が吹きつけてきた。


 三人は驚き、一斉に振り向く。


 そこに姿を現したのは、何故か木製のベッド。


 頭部側は新品のように美しいが、足元側は木が朽ちて変色している。


 男達は動きが止まっていた。


 目の前で起きていることに混乱しているようだ。


 すると、そのベッドを覆う薄く見窄みすぼらしい掛け布団の下から、筋肉質の太く青白い手が現れ、男達目掛けて長く伸びてきた。


「えっ、ちょっ、なんだ!」


 男達は慌てふためく。


 その不気味な腕は、パニックに陥った三人の中で一番背の低い、幼い声の男の左足を締め付けるように掴んだ。


「うわっ!」


 そのまま幼い声の男が、布団の中に引き摺り込まれる。


 すると、その掛け布団の中から男の悲鳴とハンマーを叩くような音が聞こえてきた。


「バッ、バケモノだ! 逃げろっ!」


 その様子を見た野太い声の男が叫ぶ。


 だが、彼は足がもつれて転んでしまった。


 その隙にまた青白い腕が掛け布団の中から伸びてきて、背が高く大柄な野太い声の男をベッドへと引っ張っていく。


 高い声の男は腰が抜けているのか、その場にへたり込んでいた。


 続いて聞こえてきたのは、野太い声の男の悲鳴とのこぎりくような音。


 最後に青白い腕は、恐怖で半分意識を失いかけている高い声の男を、すんなりベッドの中へと引き摺り込むと、ハンマーを打つ音と鋸を挽く音を響かせた。


 こうして三人を始末したベッドは、やがて地面に沈むように消えていった。


 公園にまた、彼らが来る前の静寂が戻る。


「自由な旅人は、型にはまった時が強制的な旅の終わりなのさ」


 ちなふきんはそう呟き、消えた三人に言葉を贈る。


 だが、この公園からは今夜中に去らなくてはならないと、ちなふきんは思い、すぐに移動の支度をすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る