第23話.水色のテントの女①
テント内で人が蠢いている様子がわかる。
「すみませーん!」
真樹は臆せず声をかけた。
その声に反応して、すぐに人が中から顔を覗かせた。
テントの住民は、外ハネショートボブの銀髪に、黒いチューリップハットを被った三白眼の女だった。
しかも変わったことに、彼女の口には吹き戻しが咥えられている。
「つかぬことをお伺いしますが、あなたはもしかしてワォチューバーとして有名な、ちなふきんさん?」
真樹が訊くと、その女はピュイと吹き戻しを吹いた。
真樹を目掛けて、吹き戻しが伸びる。
「ま、入んなよ」
そう言って、彼女は真樹を手招きした。
「えっ、いきなりお邪魔していいの? それじゃ遠慮なく」
真樹は遠慮することなく、笑顔でテントの中へと入っていった。
「このテント、小さいけど二人入れるの?」
真樹が訊く。
「詰めれば大丈夫さ。コーヒー入れてあげるよ」
そう言ってちなふきんという女は、旅行用の電気ケトルとインスタントコーヒーを用意した。
「あたし、ついこの間、知り合いのアイドル崩れからちなふきんさんのこと聞いて、一度会ってみたいなと思っていたのですわよ。こんなに早く会えるなんて嬉しいですわ」
真樹が話す。
ちなふきんはまたピュイと吹き戻しを吹いた。
「ところで、ちなふきんさんは何でこのような生活を?」
真樹はこの機会に知りたかったことを質問する。
「何でって、見ての通りさ」
こぽこぽとお湯が沸く音がし始めた。
「見ての通りって言われても、わからないわ」
「あーしが口で話すことより、きみが目で見て感じたことを信じたほうがいいよ」
ちなふきんがマグカップにお湯を注いだ。
テント内にコーヒーの匂いが香る。
「ま、どうぞ」
ちなふきんはカップを真樹に差し出した。
真樹は、ちょっとややこしい女と関わってしまったかもしれないと、頭の中でちらりと思った。
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