第13話.※観覧車の約束
悪魔の先導者、
今日も二人は仲睦まじく、遊園地へと遊びに来ていた。
「新しいお仕事はどうですか?」
観覧車に乗り込むなり、舞が純真に訊いた。
「ムーバーミーツ、意外と楽しいよ」
純真は終末騒動前に働いていた広告代理店を辞め、いまは配達サービスの仕事で収入を得ている。
「良かった」
舞が微笑んだ。
「収入は減ったけど、会社勤めと違って手柄を上司に取られることもないし、人間関係の煩わしさもないし、それにサービス残業もなくて、自分が働いたら働いた分、ちゃんとお金になって返ってくるのが嬉しいよ」
純真は真横に座る舞に笑顔で話す。
「純真さんが充実してるのなら、わたしも嬉しいです。環境は変わったけど、とりあえず不穏な日々から以前の日常に戻りましたね」
「そうだね」
ゴンドラは二人を乗せゆっくり上昇してゆく。
地上にいる人がだんだんと小さく、蟻のような姿になっていった。
「わたし、心に決めたことがあるんです」
舞が外の景色を見ながら言った。
「何を決めたの?」
純真が訊く。
「もう奇能を使って人を粛清しない」
「ああ……」
「わたし、思ったんです。わたし達、先導者って人を消せる凄いちからがあるじゃないですか。これって自分の気に入らない人を自由に消すことができる、ってことですよね」
舞が自分の思いを純真に話す。
「……うん、そうだね」
「つまりわたし達は独裁者なんです」
「独裁者……」
「自分の好きな人とそうじゃない人を分けて、好きな人だけを残すことができる。これって人の選別ができるってことじゃないですか。でも人の選別って本当は重い責任が伴うもので、わたしがそれを実行できるほどの立派な人間なのかなって……」
舞が遊園地に似つかわしくない真面目な顔つきで語る。
純真は、肌が艶めく彼女の横顔を見つめていた。
「……たしかに、そうだね。僕も良い人だけで構成される理想の世界を創りたかったんだけど、自分の人選が正しいかって言われると……」
「だからお願いがあります。純真さんも、もう奇能を使って粛清しないって、約束して欲しいんです」
舞が純真の方へ向き直り、真剣な目つきをした。
「……うん。約束するよ」
純真はその目に賛同し、頷く。
「わたし、ほかの先導者の人達にも奇能で粛清しないでって呼びかけていこうと思います。もう終末も無かったことですし、新世界へ行くことないから、このちからはいらないんですけどね」
「舞ちゃんって優しいよね。舞ちゃんとならいまの世界でも新世界のような理想郷を創れそうな気がする」
「純真さんも優しいですよ」
そう言って二人は互いに目を合わせて表情を崩すと、舞は首を傾け、純真の肩に頭を乗せた。
ゴンドラはもうじき再頂部に到達する。
純真はショートボブの舞の髪を優しく撫で、自分の顔を近づけた。
二人は無言のまま近距離で見つめ合う。
舞がそっと目を閉じた。
純真は舞の唇にそっと口づけをした。
互いの唇同士を貼り付けあったまま、純真は素早く舞のジーンズのボタンを外し、すっとその中へ手を差し込んだ。
舞がきゅっと身を固くする。
観覧車が地上にたどり着く残り時間で、どこまで舞と愛しあえるか、純真は頭の中で計算していた。
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