第12話.毒水家の違和感

「客間での我々の会話は盗聴されていた」


 贄村囚にえむらしゅう毒水ぶすみず邸から事務所に帰るなり開口一番、夢城真樹ゆめしろまきに言った。


「えーっ、そうなの?」


 冷蔵庫から取り出したエクレアを頬張ったばかりの真樹が、シュー皮のかけらを零しながら驚く。


「ああ、おそらく……」


「どうしてわかったの?」


「帰り際に執事が言った。『贄村様の悪魔のような理をもってしても』と。これは私が紗羽に言った『悪魔の如き理で以て最善の解決策を見出す』という台詞と重なる」


「それは……、たまたまじゃない?」


 口内でエクレアを噛み砕きながら、真樹が籠った声で言った。


「わざわざ例える必要もなく、また例えるにしても、偶然『悪魔』という表現が重なるとは考えにくい。ましてや執事ほど礼節を弁えている者が客人に対して悪魔という表現は使わない。これは聞いていた内容が思わず口をついて出てしまったのだろう」


 贄村は大机に肘を置き、指を組む。


「なんでまた、盗聴なんか……?」


 エクレアを飲み込んで真樹が首を傾げた。


「理由はわからない。だが、何か盗聴しなければならない理由があった、ということだ。それにもう一点、紗羽さわと話して気になることがあった……」


 贄村が人差し指を立てる。


「えっ、なに?」


「父親や兄弟については話が出たが、母親については一切話が出なかった」


「そう言えば……出なかったわね。でも話す必要がなかったからじゃない? もしかしたら、お母さんもお父さんと同じで死んじゃってるとか」


「いや、母親については紗羽の詰めが甘く、そこまで設定を考えていなかったのではないかと見ている」


 贄村は鋭く細めた目で真樹に話す。


「設定……? ってことは、じゃああの家族は全部作り物なの!?」


 それを聞いた真樹は目を丸くした。


「それを調べてきて欲しいのだ。紗羽達の両親は実在するのか……を」


「でも探偵の鬼童院きどういんさん、行方不明で連絡取れないわよ」


「ならばお前がやるか、お前が鬼童院を探し出してやらせるか……だ」


「え〜、そんなぁ。あたし探偵みたいなことしたことないし、面倒だわよ〜」


 真樹が嘆く。


「バイトも辞めたことだし暇だろう。行ってこい」


「ね〜こ〜げ〜」


 贄村から煩わしい用件を押し付けられた真樹は、嫌そうな声を出しながら、脱力して座っているソファーに体を深く沈めた。

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