第11話.紗羽の弟
静かな館の中、三人の足音だけが響く。
「あっ!」
そんな静寂を破るように、真樹が小さく叫んだ。
真樹が指さす方へ目をやると、一人の少年がこちらを見るように立っていた。見た印象では紗羽と同じぐらいの年齢だろうか。
少年は贄村達に見つかると慌てて姿を隠した。
「あれ、弟さん?」
真樹が紗羽に尋ねる。
「いえ、あれはわたしの兄で……」
紗羽が恥ずかしそうに答えた。
「ほう、お兄様もいらっしゃる」
「ええ……」
紗羽はぽつりと返事をすると、それ以上は何も答えなかった。
2階に上がると、紗羽は戸惑った様子で歩みが遅くなった。
結局、一番端の部屋まで来ると「ここが弟の部屋です」と贄村達に紹介した。
「弟さんをを呼んで頂けますか?」
贄村が紗羽に頼む。
「ええ……」
紗羽は少し間を置いてから、部屋をノックした。
「もしもし、あの……、えっと、ケンちゃん。入っていいかな。ケンちゃんの悩みを解決してくれる方が来てくれたわよ」
紗羽が呼びかけても部屋の中からは反応が無い。
「ケンちゃん、少しお話してみない? きっと楽になるわよ」
それでも紗羽の声が虚しく響くだけで、室内からは何の応答もなかった。
「すみません……。やっぱり人と会うのは無理なようです」
紗羽が贄村と真樹に深々と頭を下げる。
「いえ、お気になさらずに。こちらこそ無理を言って申し訳ありません」
贄村も紗羽に謝罪した。
その後、三人は先程の客間に戻るも、贄村はこれ以上は今日中に結論が出せないことを紗羽に伝え、帰宅することにした。
「それでは帰りも運転手に駅まで送らせます」
紗羽が、執事に車の用意をするように指示を出した。
執事は慣れた美しいお辞儀を見せる。
「お見送りいたします」と紗羽が贄村に言った。
「いえいえ、見送りは結構です。解決策が見つかり次第、私からも連絡を差し上げますが、もしその間に弟さんに何らかの動きが有りましたら、遠慮なくご連絡ください」
そう伝えると、贄村は紗羽に別れを告げた。
玄関を出ると「なんだか変なお家ね……」と真樹が贄村にそっと耳打ちをする。
そんな二人が車に乗り込もうとすると、ふいに背後から「贄村様」と、執事の呼びかける声が聞こえた。
贄村がゆっくりと振り向く。
「あの、お嬢様のお悩みは解決できますでしょうか。贄村様の悪魔のような理をもってしても、お嬢様を救って頂くことはできないのでしょうか」
執事が憂えた顔で贄村を見ている。
「いえ、まだわかりません。ただ今日すぐに結論というのは無理なので、申し訳ないが解決にはお時間を頂きたい」
贄村と執事、二人は互いに視線を合わせた。
「では」
贄村は執事に背を向け、座席に座る。
「……ドアを閉めさせていただきます」
執事が高級車のドアを丁寧に閉め、それを合図に車は発進をし、毒水邸を後にした。
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