第14話.ハンバーガーショップでの会話①

「久しぶりだね」


 緑門莉沙りょくもんりさが約束の時刻に約束の場所へ行くと、天象舞てんしょうまいはすでに来ていた。


「お久しぶりですね」


 突然、舞の方から莉沙に会って話がしたいと連絡があった。


 先導者としての目的も消え、莉沙側には他の先導者と会う必要が無かったものの、かと言って断る理由もこれといって思いつかなかったので、舞と会うことにした。


「とりあえずどこ行く?」


 莉沙が尋ねる。

 二人は会う約束だけをして、当日どこへ行くかはまだ決めていなかった。


「えっと……、それじゃあウロボロスバーガーに行きましょう。あそこならゆっくりしてても大丈夫だし」


 二人揃って目的地へと向かう。


 街を行く人は冬服へと装いを変えていた。

 皆、まるで他人に無関心と言った顔で街を通り過ぎて行く。


「この間まで、多くの人が神と悪魔で対立して、あちこちでデモ隊が衝突してたのに……」


 舞が呟く。


「みんなストレスが溜まってて、暴れたかっただけなんだよ」


 莉沙があざけるように言った。


 二人でしばらく歩くと、目的のハンバーガーショップに着いた。


 込み合う店内のカウンター。

 そこには、見たことがある顔の人物が立っていた。


「あれ、あの子……」


 そこにいたのは、以前、終末を止める為に共に戦った、神側の先導者である南善寺小咲芽なんぜんじこさめだった。


 当然、以前に見た和装ではなく、店の制服を着ているが、前髪が綺麗に切り揃えられた見覚えある顔は、彼女で間違いない。


 小咲芽は環境に慣れていないようで、あたふたと余裕がない様子で働いていた。


 とりあえず莉沙と舞は列に並ぶ。


 小咲芽の客ひとりを捌く時間が長いようで、莉沙達はしばらく待たされた。


 ようやく順番が来て、カウンターまで来ると、小咲芽も莉沙達に気づいたようで「あっ、あなたたちは……」と驚いた様子で言ったものの「じゃなかった、いらっしゃいませ」と、慌てて言い直した。


「あなた、ここでバイトしてたんだ」


 莉沙が声をかける。


「ええ、まあ……。わたくし世間知らずなので、世の中のことを勉強しようと働き始めたのですけど、でも失敗ばかりで皆さんに迷惑かけてしまってるのが心苦しくて……」


 小咲芽が少し俯く。


「まあ、ゆっくり慣れればいいよ。注文聞いてくれる?」


「あっ、そうでした! 申し訳ありません。あの、えっと、注文はお決まりですか、お客様」


 小咲芽が緊張した声で言う。


「そんなにかしこまらなくていいよ。わたし、スネークチーズバーガーとポテトのM、それと梅シェイクのMね。舞は?」


「わたしも……、同じのでいいです」


「会計は一緒でいいよ」


 莉沙が伝えた。


「あっ、はい!」


 小咲芽は緊張した面持ちでレジを打つ。


「えっと、合計で1700円です。あの、それから、スネークチーズバーガーは出来上がりにお時間がかかりそうなので、テーブルまでお持ちします」


「そう、ありがとう」


「あっ、ご、ごめんなさい!」


 莉沙達がレジを離れようとすると、小咲芽が急に謝ってきた。


「どうしたの?」


「クーポンお持ちかどうか、聞くの忘れてました。どうしましょう」


 焦りで悲しげな表情を見せる小咲芽に「持ってないから大丈夫だよ」と莉沙は声をかけ、自分達の後ろに並ぶ客の列が伸びてきていたので、さっさとカウンターから離れることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る