第6話.洋館の令嬢からの依頼②
電話で
紗羽は最寄駅に迎えの車を待たせておくと言っていた。
だがそこへ行くまでに、贄村と真樹は長時間、電車に揺られる羽目となった。
乗客は二人以外いないと言っていいほどの少なさで、毒水家の最寄駅は相当山の方にあるようである。
「まあ、無人駅だわ」
駅に着くなり、真樹が唖然とした声を出した。
二人で閑散とした改札を抜ける。
周囲は見渡す限りの樹木だ。
「ずいぶんと山奥に住んでるのね」
真樹は紗羽が言った迎えの車をきょろきょろと探す。
「いないわよ」
真樹がそう呟くように言った時だった。
「贄村様ですね」
背後から低く
「うわっ、びっくりした!」
真樹が驚きの声を上げた。
二人がすぐさま振り返ると、そこには背の曲がった白髪の男が
「驚かせて誠に申し訳ございません。私、紗羽お嬢様より、お客様を迎えに行くようにと仰せつかりました毒水家の運転手でございます」
男はゆっくりと頭を下げる。
「さ、お車はこちらにご用意しておりますので」
そう話す男に案内されついて行くと、駅の脇の気づきにくいところに、人ひとりが通れるぐらいの細い道があった。
「ここから道路へ抜けられますので」
たどたどしく歩く男の後を二人はついて行く。
「車に乗るにしてもあの人の運転、大丈夫かしら……?」
道中、真樹は贄村に小声で耳打ちした。
しばらく歩くと、道が開け、車が一台走れるぐらいの幅があるアスファルトで舗装された道路が現れた。
「あちらです」
男が指さす先には、艶めく立派な黒塗りの高級車が停まっていた。
静まり返った山奥に黒光の車。
「まるで大きなカブトムシね」
真樹がそう言って一人笑った。
男はそんな真樹に応えることなく、「どうぞ、こちらへ」と静かに後部座席のドアを開けた。
贄村と真樹は案内されるがままに乗車する。
高級車だけに座席の座り心地は素晴らしいものであった。
「では、毒水家まで運転を務めさせていただきます」
背の曲がった男はお辞儀をし、車のエンジンをかけた。
鬱蒼とした木々の中、他に車が走っていない道をすいすいと走って行く。
真樹の心配は杞憂だったようだ。
男の運転はなかなか慣れたもので、車が揺れることもなく、また道から外れそうになることもなく、快適な速度を保ち走行していた。
ただ、車窓から見える景色は、樹木が並んでいるだけの同じような風景の連続で、たいそう退屈なものであった。
電車で長時間揺られて、また駅から車で結構な時間を走る。
長旅で
真樹が急いで車窓の外に目を向けると、樹木の間から山の主のように現れたのは、見るからに大きな古めかしい洋館であった。
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