第7話.洋館の令嬢からの依頼③

 贄村囚にえむらしゅう夢城真樹ゆめしろまきを乗せた毒水ぶすみず家の車は、アーチ状の大きな門をくぐって庭を走り、邸宅の玄関の前で停まった。


「どうぞ」


 運転手は車を降りると、後部座席のドアを開けた。


「それにしても大きなお家ね!」


 贄村と共に車から降りた真樹が、思わず声を上げる。


 そびえ立つように建っているのは、黒煉瓦で造られたアンティーク調の邸宅。


「山の中で土地がいっぱいあるから、大きな家が建てれるのね」


 真樹は一人感心する。


 運転手の男が扉の呼び鈴を鳴らした。


「それでは、あとは家の者がご案内いたしますので」


 男はそう言うと、贄村達に一礼をすると、車に乗り込んで行ってしまった。

 おそらく駐車場に車を置きにいったのだろう。


 車が去ってから間もなく玄関の扉が開いた。


「これはようこそお越しくださいました、贄村様」


 今度は屋敷の中から身長が高く背筋の伸びた、運転手と同じく白髪の男が現れた。


「どうぞ、お入りください。すぐにお嬢様が参ります」


 そう言うと口髭を蓄えた彼は、腰を折り曲げとても美しい敬礼をしてみせた。


 邸宅の中に通された贄村と真樹は内部を見渡す。


 高い天井に大広間。


 天井には豪奢なシャンデリアが吊られている。

 大広間に敷かれているのは緋色の絨毯、そして大窓にも同じ色のカーテン。


 内装は赤を基調としているようだ。


 見ると広間の奥には螺旋階段があり、それを静かに降りてくる人物がいる。


 その人物は贄村達の前までくると丁寧にお辞儀をした。


「ようこそ、毒水家へ。わたしが相談の依頼を送らせていただいた毒水紗羽ぶすみずさわでございます」


 そう名乗ったのは、見た感じ高校生ぐらいだろうか、カールした長い髪をツインテールにした、赤黒いゴシックドレスの少女だった。


「こちらこそ、我々を選んでいただき光栄です。期待に添えられるよう知恵を尽くします」


 贄村も折り目正しく頭を下げる。


「そしてこちらは……」


「スーパーストロングユメシロですわ」


 真樹が真剣な目つきでお辞儀をする。


「まあ、スーパーストロングさん。変わったお名前」


 紗羽は驚きながらも微笑んでお辞儀をする。


「あら、そこは『おまえ平田だろ!』ってつっこんで欲しかったのですが……」


 真樹が作り笑いをしながら頭を掻く。


 紗羽は微笑んだまま小首を傾げた。


「すみません。彼女の言うことは気にしないでください」


 贄村が謝罪する。


「ところで、遠いところをわざわざお越しくださり、さぞお疲れのことでしょう。まずはお茶でも召し上がってゆっくりしてくださいませ」


 紗羽が贄村達にねぎらいの言葉をかけてくれた。


「いえ、ご心配には及びません。それより私達を呼んだ用件に入っていただきたいのですが」


「そうですか。それではこちらに」


 紗羽に促され、迷路のような広い屋敷の中を歩く。


 彼女が案内したのは、これまたインテリアが赤で揃えられた広い客間であった。

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